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第29話

それから1年徒競走.2年障害物①と進み、俺達3年障害物②の騎馬戦が始まった。 勝ち抜き戦で1度負ければそれで終わりと言う事で、アドレナリンが出まくり俄然やる気が漲ってる奴らばかりだ。 対戦相手はクジで決まり、俺達の出番はまだ先で他の組の対戦を野次を飛ばし檄を飛ばし、競技してる方も回りで観戦してる方も興奮状態だ。 教師達もデモンストレーションの事もあり、近くで見守る体制で居た。 ガッ…とぶつかり合ったり揉み合い、バタバタ…ドタドタ…走り周り砂煙りが立つ。 見てるだけで興奮してくる。 そして1回戦の俺達の出番となった。 対戦相手は赤組だ。 俺と伊織は上に乗る騎手に選ばれた。 騎手の方が面白そうだと思ってたが、俺も伊織も180は軽く超えてる大男でタッパ(背)があるから無理だろうと騎馬の1人だなと考えてた、それならガンガンに体当たりしてやろうと思ってたが、騎手選出の際に俺と伊織が選ばれた。 騎馬戦はリレーに次ぐ花形競技で選ばれた事は嬉しかったが、俺や伊織の騎馬になる奴が可哀想な気がしその事を話すと、騎馬戦の大将の奴が頷き 「ちゃんと考えてる。お前達の騎馬にはガタイの良い奴をチョイスしてるから、安心して暴れろ」 「よっしゃ~龍臣、頑張ろうぜ」 「だな。わざわざ俺達を選んでくれたんだ。期待に応えないとな」 俺と伊織はやる気満々だ。 「お前らを選んだのも戦略の1つだ。タッパのあるお前らだとなかなか鉢巻き取れないだろうし、海堂には怖くて近づけないと言う利点があるし、成宮の負けん気の強さも発揮して欲しい。他にも身が軽い奴とか判断力ある奴とか色々バランス見て決めた」 「俺のどこが怖いんだよ?」 「「顔?」」 伊織と大将とで声を揃え答え、同じ答えが可笑しかったらしく2人で顔を見合わせゲラゲラ…笑ってる。 「……男らしい顔だって、良く言われるぞ‼︎」 「確かにな。よく言えば、堀は深いし男らしーが全体的に強面?」 また2人でゲラゲラ…笑う、 相手にしてらんねぇ~! そんな経緯で、俺と伊織は騎手になり祐一は基本的に争い事は好まない奴で騎馬の右脚になってた。 俺と伊織は期待され大はしゃぎでやる気も漲る。 「伊織、一丁やってやるか?」 「鉢巻き取って.取って.取り捲ってやる‼︎」 互いのチームが騎馬に乗り対面し、大将の口上でまた士気が高まる。 「パンッ‼︎」 ピストルの音が鳴り一斉に散らばり、互いの様子を伺う者.逃げ惑う者.早速揉み合いになってる者とごちゃ混ぜだ。 「おりゃ~、待て~!」「このヤロー!」「やっちまえ!」あっちこっちで怒声が飛び交う。 俺は1番強そうな奴に一直線に向かい揉み合う。 敵も鉢巻き取られないように必死で守るが、俺はタッパを生かし上から手を出し何度も取りに行く。 そして隙をつき鉢巻きを取った。 「良~し、1本‼︎ 次、行くぞ~」 「「「おう~」」」 1本鉢巻きを取った事で騎馬の連中も張り切る。 次の獲物を探し、逃げ惑う者を追い掛け回し背後から鉢巻きを取った。 「2本目~!」 次の獲物を狙って駆けずり回る。 「パンッ!」 ピストルの音で終了し、残ってる騎馬で勝敗が決まる 紫組6騎ー赤組4騎で、俺達紫組の勝ちだ。 もちろん俺と伊織の騎馬も残った。 応援席からも歓声が湧き起こる。 1回戦は無事に勝ち抜き2回戦の相手は白組で、これも辛うじて勝ち抜き決勝まで勝ち上がった。 優勝すれば20点.準優勝15点.2回戦負け10点.1回戦負け5点と、綱引きと同様に順位によって点数が変わりこれは大きい。 総合優勝する為にも、騎馬戦と綱引きにどの組も力が入りやる気も凄い競技だ。 決勝の相手は緑組だ。 緑組は綱引きで1回戦負けしてる分、この騎馬戦に懸けてるようだ。 俺達だって負けてられねぇ~、総合優勝を目指してるからだ‼︎ 騎馬に乗り対面し睨み合う。 紫組の大将が口上を言い喝を入れる。 「お前ら~、気合入れろよ‼︎ 俺達の底力見せてやろうぜ‼︎」 『おう~~~~‼︎』 緑組の大将も口上で気合を入れた。 「絶対、優勝だ~~! 根性見せろ‼︎」 『おう~~~~‼︎」 この緊張感と団結力にワクワク…が止まらない。 俺はスタートの前に、騎馬の軸になってる柔道部の高田に声を掛けた。 「高田、重いだろ?これで最後だから頑張れ!」 「大丈夫だ。最悪、騎馬を潰せ‼︎」 「良し、その作戦も有りだな」 スタートの合図のピストルが鳴った。 「パンッ!」 「よっしゃ~~行くぞ~」 またまた砂煙りを上げ一斉に駆け出す。 俺は逃げ惑う奴を追い掛け捕まえ上から鉢巻きをあっさり取った。 「1本~~」 次の奴を探すと、伊織が2人を相手に揉み合ってた。 「伊織を助けるぞ!」 高田に指示し数m先の伊織の所に駆けて行き、2人の内の1人を俺が相手になり、揉み合いの末に俺が鉢巻きを取った。 伊織も鉢巻きを取ったらしく「龍臣、サンキュー」と、礼を言うと直ぐに獲物を探しに行った。 それから俺は緑組の大将と睨み合い、お互い相手の出方を見てたが俺から動いた。 手を出し鉢巻きを取ろうとするが、あっちも俺の手を掴み取られないようにするのを振り払い、また手を出す。 大将もやられっぱなしでは居られず、俺の鉢巻きを狙ってきた。 激しい揉み合いが暫く続き、騎馬の体勢が崩れ始めた 「海堂ヤバい。このままだと崩れる。逃げて体勢立て直すか?潰すかだ!」 揉み合いの最中に高田から言われ、俺の騎馬も崩れそうだが相手の騎馬も体勢が悪い。 逃げるのは性に合わない。 「高田、潰す‼︎」 「良し、解った!」 高田も相手の騎馬に体当たりし、俺も上から押し潰すが相手も俺の腕を掴み道連れにしようとする。 道連れにされまいとするが、騎馬の体勢も悪く互いに騎馬が崩れてしまった。 崩れた騎馬や鉢巻きの無い騎馬は陣地に戻り、体育座りだ。 俺達4人も歩いて陣地に戻る事にした。 「悪かった。潰すつもりが道連れにされた」 「いや、元々崩れそうだったからな」 「大将潰しただけでも、道連れにされた価値はあった」 「海堂、1回戦も2回戦も活躍したし、今だって鉢巻き2本待ってんじゃん。充分だって」 最後まで残り戦いたかっただろうが、俺を労う言葉をくれる3人に、この騎馬達で良かったと思うと同時に仲間意識が生まれてた。 「楽しかった。ありがと」 俺はどうしても礼を言いたかった。 素直な気持ちを話すと3人は笑顔で「俺達も楽しかった」と言ってくれた。 陣地に戻り体育座りなどせずに胡座をかいて、まだ戦かってる騎馬達を応援した。 「パンッパンッ!」 終了の合図で残った騎馬が陣地に帰って来ると、あっちこっちから労いの言葉が自然に出てた。 「お疲れさん」「良く、残った」「頑張ったな」 そんな中アナウンスで結果が発表され 「紫組5騎ー緑組6騎で、緑組優勝です」 『わ~~~~~~』『やった~~~~」 緑組から歓声が湧き起こる。 紫組からも準優勝と言う事で歓声が沸いた。 俺達も歓喜の中に居たが、正直言えば悔しかった。  グランドから陣地に戻る時に、横に並んで歩いてた伊織が自慢する。 「何~~、鉢巻き最後の最後に取られたのか~、だっせ~な。俺なんか1回戦からずっと残ってたぜ~。やっぱ俺って凄い‼︎」 何言ってんだ~こいつ‼︎ 決勝戦で2人に囲まれてた所を助けてやったの、誰だと思ってんだ~! 「凄い.凄い。だが言っておく! 俺達は鉢巻き取られたんじゃねぇ~よ。潰そうとしたら相手に道連れで騎馬が崩れたんだ。それまでは2本鉢巻き取ってるんだからな!」 「まあ、何言っても結果が大事だ」 偉そうに恩を仇で返すって、こう言う事だな‼︎ 俺達の話を聞いてた祐一が仲裁に入る。 「まあ.まあ。もう終わった事だしな。気持ちは色別リレーに切り替えてこうぜ。お前ら選手に選ばれてるんだから、頑張れよ!」 そうだった。 それで最後の競技だ。 ……思った以上に楽しかった体育祭も、もう直ぐ終わってしまうんだな。 周囲のお祭り騒ぎの中で感慨深く感じた。

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