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第34話

夏休みに入って俺は実家に帰省し、明日から母さんが申し込んだ夏期講習に2週間程行く予定だ。 「大学に行くなら、今から勉強しなきゃね。帰って来てもいつも家に居ないでふらふら遊び歩くんだから、夏期講習行ってしっかり勉強しなさいよ。あとね、尊にも……優しくしろとは言わないわ。でもね、偶には声ぐらい掛けても良いんじゃないの?」 「……解った」 そう小言を言いながらも顔は嬉しそうだった。 いつも帰省してもふらふら遊び歩き、居るんだか?居ないんだか?解らない生活をしてても自由にしてくれてたが、本当は心配してるのは知ってた。 その母さんは俺が大学に行く事を本当に喜んでくれてた、親父は言葉では好きにして良いと言ってたが喜んでるのは解ってる。 そんな2人を見て大学に行く事を決めて良かったと思う。 そして導いてくれた芳村にも感謝してる。 その芳村とも1ヶ月近く顔を見る事が出来ない。 付き合って居れば…恋人同士なら……と思うが、今は仕方ない。 取り敢えず目の前の夏期講習に集中しないとな。 偶に芳村に電話しても……良いよな。 夏休み前に芳村から「夏休み中に、この問題集をやって見ろ。解らない所がどこなのか?知る事も大切だ。それと解らない問題はそのままにせずに解決する事。良いな?」そう言って貰った1冊の大学受験問題集の表紙を大切に撫でた。 俺の為に選んで買ってくれたんだな。 母さんや親父.芳村.そして伊織や祐一の思いに応える為にも、夏期講習を頑張ってみようと思った。 次の日から俺は昼近くに起き2時間程勉強し、夕方から夏期講習に行く生活が始まった。 夏期講習に行き、皆んな大学受験に真剣に取り組んでる様子や講師達の試験対策や塾ならではの情報やサポートを知り、俺も真剣に勉強しないと…思い知った。 講習が終わっても自習室に残って勉強する奴らも居て俺も家に帰ってやるより集中できると自習室を使う事も多くなった。 そんな勉強漬けの日々だったが充実感もあった。 こんな勉強したの小学校の低下学年以来か、いや初めてかもな。 夏期講習行っても友達なんてもんは出来なかったが、自習室を使ってると講師の何人かは声を掛けてくれた 偶に息抜きで、夏期講習帰りに伊織と祐一と待合せてファミレスで夕飯食べながら話したりした。 伊織や祐一はAO入試か公募制推薦で大学は行くはずだ。 たぶん9割方それで受かるはずだが、万が一を考え2人は一般入試に向けても勉強してる。 俺も一応はAO入試か公募制推薦で行きたいが、俺は50:50だ。 俺は特に英語と国語が苦手だった。 典型的な理数系だ。 英語が苦手だと自分でも思ってたが、夏期講習で更に解った。 その事を2人に話すと英語が得意な伊織が「偶に、塾帰りに教えてやる」と言ってくれた。 祐一も「それなら俺も国語を教えてやる」と言って連絡取り合い塾終わった後に、ファミレスで勉強会が度々行われた。 やはり持つべきものは友達だな。 「一緒に大学行こう」と言う2人の期待に応え、俺も勉強する日々だった。 1度だけ芳村に電話した。 夏期講習に行って刺激受けてる事や伊織や祐一とも偶に勉強してる事を話すと、芳村の声も嬉しそうだった 「良い傾向だな。勉強する事が身につけば海堂なら受かると思う。本人のやる気の問題だからな。それと良い友達を持ったな。成宮と桐生も頑張ってるんだな。夏休み明けが楽しみだ」 そうか、夏休み明けじゃないと会えないんだな。 芳村と電話で話したのは嬉しかったが……会いたい気持ちが募った。 俺は名残り惜しいが「んじゃ、報告まで」と言って、何でも無い振りで電話を切った。 電話しない方が良かったか⁉︎ 芳村の顔が浮かんで仕方ない。 でも、頑張ってる俺を褒め自分の事のように喜んでくれた芳村の為にも頑張ろう。 そう思い直した。 頭はいっぱいいっぱいだったが、応援してくれる人が居ると思うと気持ちは前向きだった。 夏休み明けまで会えないと思ってた芳村とある事が切っ掛けで、会う事になるとは思いもしなかった。

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