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第35話

その日は夏期講習の最終日だった。 いつも通りに夕方に塾に行き最後の講習を受け、そして講師から大学受験の対策や映像授業オンラインなどの活用法やお勧めの問題集など色々説明があり、そして2週間に及ぶ夏期講習も終わった。 最後にお礼の挨拶をし塾を出た。 「やっと終わった~」 外に出て腕を伸ばし、夏期講習から解放された事を喜んだ。 この後にいつものファミレスで、伊織と祐一と夕飯の約束をしていた。 どうやら俺が夏期講習の最終日だと解って、お疲れ~と言う意味での集まりらしい。 待合せのファミレスに行くと、伊織と祐一は既に席に着いてた。 「よお! 遅くなった」 もっと早く着く予定だったが、最後に講師からの説明で予定より遅く着いた。 「いや、俺達もさっき来た所だ」 「取り敢えず飯食お~ぜ。俺、腹減った~」 メニューと睨めっこしてた伊織に言われ、直ぐに決め注文した。 料理が運ばれドリンクバーの飲み物で「龍臣、お疲れさん」「頑張ったな」と、乾杯した。 夏期講習終了したぐらいで……とは思ったが、嬉しかった。 自分でも頑張ったと思うし、それを褒めてくれる奴らが居る……こりゃ~大学何が何でも受かんねぇ~とな。 また、密かにやる気が出た。 お互いの塾の夏期講習の話しや受験に関する事を話したりオープンキャンパスの日程を相談したり、夏休みに1回ぐらいは海かプールにでも行きたいなと話したりし夕飯を食べた。 俺達が大学受験や塾の話をするとはな。 受験生って感じがする。 3者面談前までは、俺には関係ねぇ~と思ってただけに……何だか同じ目標に向かってるって良いな。 楽しい時間を過ごし店を出て、俺達は一緒に駅に向かい路線が違う俺はそこで分かれた。 電車に乗り車窓の風景を眺め、あいつらと一緒に大学行きてぇ~なと改めて思った。 そして最寄り駅に降り、ふっと駅の反対側に大型の書店ができたのを思い出した。 ちょっと大学に関する本や参考書.問題集を見て帰る事にした。 家とは逆の出口に向かい階段を降り繁華街を歩き、目的である大型書店を目指してた。 確か~割と駅の近くにできたはず? 久し振りの地元は変わってたり人も多かった。 もう少しで目的の書店が見えてきたと思った時に 「止めてください!」「離して!」と、女の声が聞こえ「良いじゃん。ちょっとだけ飲み行こうよ」「カラオケでも良いよ~」「少し付き合うくらい良いじゃん」と、数人の男の声も聞こえた。 声のする方を見ると、自販機の目立たない所で女が3人のヤンキーっぽい男達に腕を取られ逃げられないように前を塞がれ囲まれてた。 目立たない場所だが、声は聞こえてるのに誰も関わりになりたくないと見て見ぬ振りをして歩く。 俺も関係ねぇ~と、通り過ぎようと思った時に「嫌、助けて~!」と、女の声で俺は咄嗟に体が動いた。 女の腕を取ってる男の手を退け3人を睨み威嚇した。 「何やってんだ‼︎」 「はあ⁉︎ 何こいつ‼︎」「誰だよ‼︎ 邪魔すんな‼︎」「関係ねぇ~奴は、あっち行ってろ‼︎」 酒が入ってるのか⁉︎ 酒臭い気がする。 俺を知らないって事は、こいつら地元の奴じゃねぇ~な。 ここら辺でそっち方面では顔は知れてるし、俺に歯向かう奴は居ない。 「良いから、その女こっちに寄越せ‼︎」 俺の背後に居る女に手を出そうとする手を掴む。 「このヤロ~、やんのか⁉︎ ああ!」 「やるつもりは無い‼︎」 低い声を出し睨み威嚇した。 「こいつ~ムカつく‼︎」「やっちまおうぜ‼︎」「このヤロ~‼︎」 1人が拳を振り上げて来たのを避け、背後の女に「逃げろ‼︎ 早く!」と、逃げる様に指示した。 女は振り返りながらも逃げて行った。 3対1か。 ……3人ぐらいなら…倒せるが……芳村と親父と母さんの顔が浮かんだ。 しゃ~ねぇ~か。 次々に振り出される拳や蹴りを躱すが、それも限界だった。 俺が手を出して来ないと解ると2人掛かりで、俺の腕をとり1人が拳で殴り腹に蹴りを入れ5~6発食らった。 誰も止めずに見て見ぬ振りする人の中で、誰かが「お巡りさん、こっちです!」と、警察を呼ぶ声が聞こえた 「やべぇ~」「逃げるぞ!」「早く.早く!」 警察官の姿が見えたのか?俺をその場に残し逃げて行った。 1人の若い警官が「待ちなさい‼︎」と叫び、途中まで追ったようだが逃げられ戻って来た。 俺は腹にも何発か入って動けず蹲ってた。 「大丈夫か?動けるか?そこの交番で、事情聞くから」 肩を貸してくれ、交番までゆっくり歩いた。 駅前の交番に辿り着き、パイプ椅子に座り若い警官に色々聞かれた。 「なぜ、喧嘩になったのか?」「相手は誰か?」etc… 俺は正直に女を助け自分は手を出して無いと答えたが俺の人相を見て信用して無い口振りで色々言われた。 ま、そう思うよな。 見かけで判断されたら…今までの経験上から解ってる事だった。 少し投げやりになってた時に年老いた警官が入って来た。 「おっ! 久し振りだな?龍臣」 「げっ! 角田さん⁉︎ まだ生きてたのか?」 「相変わらずだな。何だ、喧嘩か?やられるなんて珍しいな」 「やられてねぇ~よ。始めっから手を出してねぇ~もん」 「はっ⁉︎ どう言う事だ?」 俺は若い警官に言った事と同じ事を角田さんに話した この角田さんはあと何年かで定年の警官で、俺が中学校の時から悪さをしては捕まったりで色々世話にもなった人だった、そして親父の小学校か中学校の時の先輩でもあった。 親父とは世間では対立関係にあるが、実際は顔を合わすと多少の話しはするくらいの仲だった。 親父絡みもあるが、俺の事は結構目を掛けてくれてた 「角田さん、嘘ついてる可能性もありますよ。そんな女性は現場には居ませんでしたし」 「そうか。龍臣の事は昔から知ってるが、まあ悪さはするが嘘はつく事は無かった」 「信用するんですか?」 「さて、困ったなぁ~。他に誰か見てるもんは居なかったか?」 昔から俺を知ってるだけあって角田さんの言葉は嬉しかったし、俺はそんな角田さんに何度も悪さし叱られてもキレる事は無かった。 そのくらい角田さんの事は信頼してた。 その時に交番の入口に1人の女が姿を現した。 「あのぉ~…ここに連れて来られたって聞いて…」 「あっ!」 俺の声で女も気がついたらしく、交番の中に入って俺達の側に寄って来た。 「さっきはありがとうございます。あの人達しつこくって…誰も助けてくれなくて……助けてくれたのに……逃げてすみません」 涙ぐみ頭を下げ俺に謝罪とお礼を言う女を見て、角田さんも納得したようだ。 「良いよ。俺も最初は通り過ぎようと思った口だし」 「本当に、ありがとうございました」 「これで一件落着したな。龍臣の話しは本当だって事だな。ま、今回は人助けだし、その怪我じゃあ、お前の方が被害者だからな。事件にはならない」 「でも、一応事情調書や未成年ですから家の人に連絡した方が……」 若い警官はまだ納得して無い口調だった。 「ま、今回は私に任せなさい。それより彼女を駅まで送って行ってくれるか?まださっきの奴らが、そこら辺に居るといけないからな。見回りも兼ねて頼む!」 ポンッと若い警官の肩を叩き女を送らせた。 女は何度も頭を下げ、若い警官に連れられ交番を出て行った。 こうして俺の疑いも晴れた。

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