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第36話
「まあ、良かったな。これで疑いは晴れたな。人助けは良い事だが、なぜ直ぐに警察を呼ばない?それにどうしてやり返さなかった?」
「警察呼んでる暇無かったし、そもそも頭に無かったやり返さなかったのは……学校の先生の顔と親父や母さんの顔が浮かんだ」
「そうか、思い止まったって事か。良い傾向だな。お前も一丁前に大人になったって事か⁉︎ わしも歳をとるはずだ」
がははは…と、皺が多くなった顔で笑った。
「さて、未成年だし、その顔と体じゃあ1人で帰すわけにはいかん。家の者に連絡しないといけん」
家…か。
人助けだと言っても、こんな格好じゃ折角あんなに喜んでる母さんをまた心配させる。
……考えた末に角田さんに頼んだ。
「角田さん、家じゃなくここに電話してくれ。学校の先生なんだ。親父や母さんには心配掛けたくない。頼む‼︎」
角田さんも暫く考え、俺が渡したスマホを受け取り少し離れた所で電話してくれた。
「ありがと」
「ま、学校の先生なら」
そして芳村の携帯に繋がったらしく、角田さんが事情を話してるのが漏れ聞こえた。
暫くしてスマホを手渡され
「直ぐに、迎えに来るって言ってたぞ。龍臣、信頼できる先生なのか?」
「ああ、親やダチと同じ位に信頼できる‼︎」
「そうか.そうか。良かったな」
俺が小学校から家の事で友達も出来ず教師達からも一線引かれてた事を知ってる角田さんは皺が多くなった顔で嬉しそうに笑った。
それから角田さんと今の学校での話や世間話をしてると、芳村が慌てて交番に飛び込んで来た。
「海堂! 大丈夫か?怪我は?」
俺の所に一目散に掛け寄り、俺の体を心配した。
「ああ、大丈夫だ。何発か殴られたり蹴りが入っただけだ」
「何発か殴られたって、口元が切れてるし頬も赤いぞ本当に、大丈夫か?」
「ああ、大した事ない」
「そうか。それにしても良く思い止まったな? 偉い.偉い!」
そう言って笑顔を見せ、パイプ椅子に座ってる俺の頭を撫でた。
その光景を見てた角田さんが笑って芳村に話し掛けた
「先生ですか?すみませんね~、龍臣がどうしても先生に電話してくれって言うもんですから。わざわざご足労願って。事情は電話で話した通りです」
「す.すみません! 電話頂きありがとうございました。それで……今回の件は学校には……」
がはははは…笑って
「連絡はしませんよ。人助けだって解ってるし第一被害届けも出てませんしね。ま、被害者は龍臣とその助けられた女性ですし」
「あ.ありがとうございます」
「本来は家の方に引き取って貰うのが筋ですが、学校の先生なら身柄引き受け人でも良いでしょう。龍臣、もう帰って良いぞ」
パイプ椅子からゆっくり立ち上がる俺の腕を芳村が支え、歩き出そうとする俺の頭を下げさせて自分も頭を下げてた。
「本当に、ありがとうございます。ほら、お前もお礼言いなさい!」
「ありがとうございました。角田さん、皺増えたね?」
俺がそう言って頭を上げると、芳村は背伸びしポカッと軽く頭を叩いた。
がはははは……
「良いんですよ。こいつは昔から知ってるんでね」
「すみません。本当に、ありがとうございました。海堂、帰るぞ」
「ヘ~い」
帰ろうとした時に角田さんが俺の耳元で「良い先生だな」と、俺だけに聞こえるように囁いた。
その言葉を聞いて、俺は心からの笑顔を角田さんに見せた。
そして車で来てた芳村の車に乗ると「今日は私の家に行くから、親にはちゃんと友達の家に泊まるでも良いから連絡しておく事! 良いな?」思っても居なかった芳村の家に行く事になり、車の中で角田さんから大まかな事情は聞いてたようだが、詳細を俺の口から話すように言われ事情説明してる間も、初めての芳村の自宅にドキドキ…してた。
今も狭い車中に2人で居る事も……。
また1歩…芳村との距離が縮まった。
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