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第37話
「そこに座れ」
指定されたソファに座り、部屋の中をキョロキョロ…見回した。
整然としたリビングには物があまりなく、全て収納されて綺麗な部屋だった。
グリーンのカーテンとグリーンのソファとチャベージュのラグとクッションで統一し暖かみのある雰囲気だ。
何だか落ち着つくな。
居心地の良さそうな空間と綺麗に片付けられてる部屋が芳村の性格を表してた。
救急箱と飲み物を手にし、俺が座ってるソファに戻ってきた。
「冷えたお茶だ。気を付けて飲めよ」
冷えてんのに?気を付けて?
言ってる事が良く解らなかったが、喉が乾いてゴクゴク…一気に飲んだ。
「いってぇ~」
殴られた時に口元が切れてたのを忘れてた。
「だから言っただろ?気を付けろって。染みるか?」
「大丈夫.大丈夫」
染みる口元を手で押さえ話す。
「どうする?手当てしたいが、風呂に入るならその後の方が良いけど?」
風呂?
「い、良いのか?俺は汚れたから風呂に入って、さっぱりしたいが……」
「良いに決まってるだろ。じゃあ、入って来いよ」
ソファから立ち上がる時も芳村は手を貸してくれ、そのまま俺を支え浴室に連れて行った。
本当は1人でも歩けるが……折角のチャンスと思い芳村に体を寄せ密着した。
シャワーの使い方などを教えると芳村は脱衣所から出て行った。
服を脱ぎ裸になると脇腹が赤くあざになってた。
これくらいなら日常茶飯事だし大した事はないな。
浴室に入ってシャワーを頭から浴びる。
湯が顔に当たると切れた口元が染みた。
頭を洗い体を洗いさっぱりとして鏡を見た。
切れた口元と頬の辺りが赤く腫れてた。
「ったく、無抵抗の奴に3人掛かりでやりやがって‼︎」
ま、そのうち腫れも引くだろう。
そしてゆっくりと湯船に浸かった。
ふう~、思い掛けない展開で芳村に会えた。
部屋まで上げて貰えるとはな。
コンコン…浴室のドアがノックされた。
ま、まさか⁉︎
一緒に入るのか?
ドキドキ…心臓が高鳴る。
「海堂~、部屋着ここにおいて置くからな?」
ドアの外からそう話し出て行く気配がした。
そ、そうだよな!
一緒に入るわけないよな。
期待してた自分に呆れて、そしてがっかりした。
今日は泊まって良いって事だよな。
寝る時はどうするんだろう。
男同士でもベットでゴロ寝する事もあるし、俺の怪我を心配して添い寝するかも知れねぇ~し……またドキドキ…してきた。
一晩芳村と一緒に過ごせると思うとドキドキ…が止まらない。
それから俺は平常心になるまでゆっくり風呂に入った
湯船を出て脱衣所にはTシャツとハーフパンツが置かれてた。
バスタオルで適当に髪と体を拭き用意された部屋着に着替えた。
そう言えば俺が着てた服は?
辺りを見ると洗濯籠に入ってた。
洗濯してくれるって事か⁉︎
一緒に生活してるみたいだな。
嬉しい気持ちになりタオルで髪を拭きながらリビングに向かった。
俺が歩いて来ると芳村は直ぐに駆け寄り「大丈夫か?呼べば良かったのに」と心配し支えて歩く。
ソファに座ると芳村がラグに座り向かい合わせになり救急箱から消毒液を取り出す。
どうやら手当てしてくれるらしい。
綿に消毒液を垂らし切れてる口元を拭く。
「いってぇ~」
「染みるか?少し我慢しろ」
顔をしかめる俺を見て芳村も痛そうな顔をした。
消毒が終わると絆創膏を貼り、腫れてた頬と脇腹数カ所に湿布を貼った。
「こんなにやられて良く手を出さなかったな?」
「……こんなの大した事ない……1発殴られた時にはカッときたけど……大学行くの喜んでる母さんや親父の顔が浮かんだ……芳村の顔もな。心配掛けたくないと思った」
俺が照れ臭く無愛想に応えると芳村は破顔し、俺の頭を何度も撫で「偉い! 偉い!」と褒めてくれた。
照れ臭くって俺は「犬じゃねぇ~んだから」と頭を振った。
「髪が立ってないせいか?今日は撫でやすい。いつもは痛いからな。海堂も髪を下ろすと歳相応になる…か?」
「何だそれ?どうせ俺は強面だし老けて見えるって言いたいのか?」
軽く睨んで話すが、ここにも俺の睨みなど気にしない奴が居た、その証拠にズケズケ話してくる。
「まあ、確かに図体はでかいし態度も高校生には見えない。顔は悪く言えば強面?良く言えばワイルド?ま、人の見方は色々だし。そんな事より着替え大丈夫だったか?大きめのTシャツとハーフパンツを探したんだが……。下着は新しいのがあってもサイズが合わないから用意しなかった」
「ん~~、まあ、着れた事は着れたけど…やっぱキツイかも」
「そうか、悪いな」
芳村が悪いわけじゃないがそう言って謝る。
たった1晩なのに……今日だけ…か。
「少しゆっくりしてろ。私はお風呂入ってくるから」
救急箱を片付け着替えを持って浴室に向かう芳村の後ろ姿を眺めてた。
今日だけ…か。
また、明日になれば夏休み明けまで会えなくなるのか⁉︎
俺は頭を巡らせ考えた。
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