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第45話

また、俺は夜中に目が覚めた。 別に意図して目を覚ましたわけじゃなく、偶々目が覚めた。 そして…俺はベットを抜け出した。 ‘止めた方が良い’ ‘流石に、2日続けてはヤバい’ と頭の中で警報が鳴るが ‘今日で最後だぞ’ と気持ちでは思ってる。 芳村の寝顔を見るのは今日が最後だと思う気持ちが勝ち、結局、自分の気持ちに正直に行動に移した。 昨日と同じように、そぉっと寝室のドアを開け芳村が眠るソファに足音を立てないように静かに歩く。 いつ芳村が起きてしまうか?とドキドキ…してた。 ソファで寝てる芳村の顔の横に立ち上から眺めた。 今日で……最後か。 次に、芳村の寝顔を見れる時は来るんだろうか? もしかして、本当に最後かも知れない。 そう思うと、もっと近くで見たくなり目に焼き付けておこうと思った。 そして昨日と同じように芳村の顔の近くに跪いた。 スースー…寝息を立て寝てる。 大丈夫.大丈夫だ。 見納めだと思い芳村の寝顔を見つめた。 この薄い唇に昨夜……キスしたんだよな。 昨夜は無意識に吸い込まれるようにキスしたが、今日は意図的にキスした。 触れるだけの昨日のキスより少し長く唇を合わせた。 名残惜しいが、起きないうちにと唇を離し小さな声で心の内を言葉にした。 「…好きだ」 ドキドキ…初めて芳村本人に告白した。 芳村自身は眠って居たが……。 俺はゆっくり立ち上がりその場を離れ、静かに足音を立てずに寝室に戻った。 パ…タン……。 私は……夢を見てたのか⁉︎ 人の気配がする気がした。 でも、それは夢なのか?気のせいなのか? まだ覚醒せずに夢と現実の世界を彷徨ってた。 目を開けるのが……怖い……夢を見てるんだと彷徨う頭で考えた。 そして……唇に微かに触れたような……キス⁉︎ 触れるだけのキスは直ぐに離れた。 そして……「……好きだ」と声が聞こえた。 海堂⁉︎ 部屋には私と海堂しか居ない。 もし今目の前に海堂が居たら……どうすれば良いか?困惑し、目を開ける事は出来なかった。 夢であって欲しい……願う気持ちだった。  そして人の気配が遠のきパタンと小さな音で寝室に入ったと解り…やっと目を開け現実だと感じた。 触れるだけのキス……自分の唇を指先で触る。 夢⁉︎ でも……微かな感触……そこは自信が持てなかった。 人の気配と……「……好きだ」と躊躇いがちに言った言葉は間違えなく聞こえた……気がする。 そして海堂だと思わせるのに充分な証拠として、寝室のドアが閉まった小さな音。 やはり海堂⁉︎ 海堂が私を……好き⁉︎ 思ってもみなかった……でも、慕ってくれてるのは感じてた。 ガタイも良く強面と評判の顔で見た目怖そうだが、心を開いた相手には優しく素直だ。 それは成宮や桐生達への接し方で解る……そして私にも。 でも……私の考え過ぎかも知れない。 好きにも色々ある。 親しみを込めたり.憧れだったり.友達としてだったり………恋愛対象として…だったり………。 ……私には……教師として、今まで誰にも心を開かなかった海堂が初めてと言っていい心を開いた教師だから…なのか? そうだと思いたかった……教師として好きなんだ…と。 確かに、私も海堂は可愛いと思ってる。 手も掛かるが、私を慕って心を唯一開いてくれた海堂はやはり可愛い。 これは飽くまで教師としてだ! 今回も誰でもなく私を頼った事も嬉しかった。 どんな意味の ‘好き' か?は解らないが……海堂を少なからず意識してしまいそうだ。 教師と生徒として距離が近かったのかも知れない。 それが憧れを好きと勘違い.誤解させたのかも。 少し距離を取った方が海堂の為だろうか⁉︎ そう思うとチクッと胸が傷んだ。 寂しい……⁉︎ 頭の中はごちゃごちゃで、まだ整理できてない。 幸い、まだ夏休みも2週間程ある。 明日には帰るだろうから……その間に、海堂の気持ちも冷めるかも知れないし距離を取るには良い機会かも知れない。 でも……避けたり今までと態度を変えるのも……飽くまでも自然な形で海堂には悟られないようにしなければ……また海堂は教師をいや人を信じられなくなる! それは避けなければ……私の態度次第って事…か⁉︎ 責任重大だな。 「……好きだ」と聞かなければ良かった。 夢であれば良かった。 海堂を意識してしまう。 その夜は悶々と考え眠る事が出来なかった。 そして……結論から言うと…私は表向きは態度を変えずに、海堂に解らないように少しずつ距離を取る事にした。 海堂を傷付けないように。 海堂の為に……寂しいが……それがお互いの為だ。 絶対に、海堂には悟られないように飽くまでさり気なく距離をおこう。 眠れぬ夜を過ごし結論を出し、眠りに就いた時には白々しく夜が明ける時間だった。 「ヤバッ! 遅刻する~」 目が覚めた時には、部屋を出なければいけない時間だった。 夏休みと言っても教師達には関係ない。 慌ただしく支度し、メモと鍵を置き部屋を出た。   ーーーーーーーーーーーーーーーー | 朝は食パン、昼はカレー食べろよ。| | 夕飯は外食して、そのまま家まで | | 送る。             | | 勉強はしろよ! | | | ーーーーーーーーーーーーーーーーー

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