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第54話
10月6日(金)校内文化祭。
校内での文化祭は学年やクラスを超え多くの生徒が行き来し楽しんでる。
喫茶店.展示.遊園地.ゲーム.お化け屋敷etc…そして文化部による展示(習字.美術.アニメetc)体育館ステージでは有志によるバンドや歌.吹奏楽部.ダンスetc…と、見たり食べたり回って歩くのも楽しみだ。
俺達のクラスは午前と午後に交代で見て歩く事にし、俺と伊織と祐一は午前中に志願した。
午後からゆっくり見ようと話してた。
男子校でも、やはりお化け屋敷は人気があり、俺達のクラス以外にも1年でお化け屋敷をしてるクラスがあるらしいが、そこも行列になってると聞いた。
あとは遊園地も行列が出てるらしい。
もちろん俺達のお化け屋敷も行列になってた。
真っ暗な暗闇の中をペンライト1つで進み、恐怖を煽るようなBGMに時折叫び声やうめき声が聞こえ怖さに拍車を掛ける。
壁には血の跡と血文字。
少し歩くと壁の死角から助清が出現し、日本人形.そして偽火の玉.マネキンの血塗れの顔がクルっと回り、また進むと頭に包丁が突き刺された男が傷メイクで脅かし、TVの画面がいきなり砂嵐.用具入ロッカーからジェイソンの面を被り飛び出し、少し歩いて行くと人体模型の側に白衣を着たゾンビ男また少し行くと包帯を巻いた患者が台車で壁下の隙間から出て、そしてボロボロの着物を着て目玉が飛び出た男、最後に出口間際に伊織がドラキュラで脅かす。
スタートからゴールまで驚きと恐怖の連続で進むように考えた。
俺はロッカーから出るジェイソン男だった。
狭いロッカーから人が来るのを小さな穴から見てタイミング良く脅かす。
「ギャ~~」「うわぁ~~」「ひいっ!」「こわ~~」
あっちこっちで叫び声が聞こえる。
脅かす方もそんな声を聞くと楽しい♪
1時間程経った頃だった。
受付をしてた祐一がこっそり俺が待ち構えてるロッカーに裏手から来た。
小さい声で「芳村が来たぞ」とだけ言って、また暗幕の裏に去って行った。
芳村?1人か?
それとも誰かと……。
叫び声がするお化け屋敷のロッカーの中で、芳村が来るまで何人か脅かし待ってた。
ペンライトがあっちこっち彷徨って明らかに震えてる手で持ってるのが解る。
それは芳村だった。
手も震えてるし足も震えてんじゃん。
怖くて声も出ないって感じだ。
俺はずっとお化け屋敷の暗闇に居た所為もあり、目は慣れて様子が解る。
ゆっくりとロッカーの前を通ろうとする芳村の手を引き、俺は素早くロッカーの中に連れ込んだ。
「ひいっ!ギャ……んぐっ」
叫ぼうとする芳村の口を俺の手で塞いだ。
「しっ! 芳村、俺だ。海堂だ」
芳村の口を塞いだ手とは別の手でジェイソンの面を取る。
俺の顔を見てホッとしたのを見て口を塞ぐ手を退けた
狭いロッカーは2人も入ると密着し、殆ど抱きしめる体勢だった。
俺の顎の辺りに芳村の頭があり髪の毛でくすぐったいそれ程密着してた。
「か.海堂⁉︎ 何で?」
「祐一から芳村が来たって連絡あった。まだか.まだかって脅かそうと思って待ってたけどよ~。芳村、怖いのか?手が震えてるし足もヨタヨタ…してんじゃん。見てられ無かった」
「……実は、お化けとか幽霊関係はだめなんだ……映画や写真も無理……けど……担任だから、一応どんなものか確認しようと思って……何で、こんな本格的なんだよぉ~……」
「怖くなきゃお化け屋敷じゃねぇ~じゃん」
「ま、それはそうだけど……本当に良く出来てる」
「だろ?最後の文化祭だからな。何やかんや言って、皆んな協力してたからな。俺達のクラスって他より団結力あるし」
「普段は好き勝手してる癖に、いざって言うと団結するんだよなぁ~。面白い奴らだ。……海堂⁉︎……もしかしてお前……こうやって、この中に連れ込んでないだろうな?」
こそこそ小さな声で話してるうちに、芳村も落ち着いてきたようだ。
「まさかだろ。俺は指示された通りに、ここからいきなり出て脅かす役に徹してる。それに脅かすのが楽しいから連れ込むわけないじゃん。あんまりにも芳村がヘロヘロだったから、見兼ねて入れてやったの」
「そうか、疑って悪かった。そんなに怖がってたか?」
「ああ、この隙間から見てても解った。足が覚束ない感じで震えてた」
俺達がロッカーの中で身を潜め小声で話してると、また客が来たようだ。
「なあ、あのロッカー怪しくね?」
「絶対、怪しい~」
俺達が入ってるロッカーを開けようとするが、俺が一早く中から鍵を閉め、わざとガタガタ…音をさせ怖がらせた。
「ひいっ! 行こうぜ」
「ああ」
声を震わせ進んだのを確認してホッとした。
芳村と抱き合うような体勢で居るこの姿を見られたらヤバい。
俺は構わないが芳村が……。
「芳村、最後まで行ける?」
「……無理。それに充分解ったからゴールしなくても良い」
「良し、解った。ここを出て直ぐに暗幕の後ろに行ける、それで暗幕伝いに来た道を戻れる。俺が出たら暗幕を持ってやるから直ぐに屈んで入れ」
「ありがと。助かる」
狭い空間でお礼を言う為に顔を上げ話す芳村。
キスするには丁度良い距離だと思った。
直ぐに芳村が顔を戻した。
隙間から辺りを見て誰も居ない事を確認して、俺は芳村の髪にキスするように唇を近づけ「行くぞ」と言い芳村の髪に気付かれない程の触れるキスをし芳村の手を握りロッカーを静かに出て、直ぐに暗幕の裾を持ち芳村をお化け屋敷からリタイヤさせた。
あとは壁伝いに戻れば良いだけだ。
受付には祐一も居るし、何とかするだろう。
俺はまた任務を遂行する為にロッカーに入った。
さっきまで身動きできない程の狭さだったが……1人で居ると狭さを感じ無かった。
思わぬ展開で芳村と密着でき、またこの文化祭が良い思い出になった。
それからの俺はテンションが上がり、脅かして.脅かして.脅かしまくった。
「ギャ~~」「ひいっ!」「こわっ!」……驚く客に快感を感じてた。
すげぇ~面白かった♪
出来れば芳村と一緒に入って、怖がる芳村と手を繋ぐか.肩を抱いて回りたかったが……あの調子じゃ無理だろうな。
でも、芳村が怖がりだと初めて知った。
いつもと違う1面をまた知り可愛らしいと思った。
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