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第56話
「ん……寝てた?」
見回りを兼ねて、うちのクラスの出来栄えを見ようと教室に行ってみた。
廊下には行列ができ ‘良かったな’ と思いながら、受付に居る桐生と八田に話し掛けた。
「盛況で良かったな」
「お陰さんでな」
「芳村は昨日の予行練習の時に居なかったよな?入ってみる?」
「えっ!……いいよ」
「そう言うなって。結構、本格的だぜ。試しに入ってみろよ、良いから.良いから」
‘いいよ‘ と言ってるのに、強引にペンライトを持たされて背中を押され入口に押し込まれドアを閉められた
「嫌だって言ったのに………」
暗い教室の中を恐る恐る矢印に沿って進む。
頼りは、この小さなペンライトだけだ。
ギュッと握りながら進む。
恐怖を増幅させるBGMの中で叫び声とうめき声。
「効果音が……ひぃっ!」
叫び声に反応し、思わずこっちが叫びそうになり口を抑えた。
早くここを出ようと前に進む。
白マスクを被った助清やら日本人形やらマネキン……もう限界だった。
ペンライトを持つ手が震え足もガクガク…して、思うように前に進めない。
実は……こう言う霊的なものは苦手だった。
怖い映画や写真やらTV番組は極力避けてきた。
「どっかリタイヤできる場所ないのか?」
怖さから独り言が知らず知らず口から出てた。
不自然にある用具入れロッカー。
‘絶対に出て来る…’と思い、警戒しながら前を通り過ぎようとした時に、いきなり開き腕を掴まれロッカーの中に連れ込まれた。
「ひいっ!ギャ…んぐっ」
叫び声を上げようとした所で口を塞がれた。
「しっ! 芳村、俺だ。海堂だ」
海堂⁉︎
海堂の声にホッとしたと同時に、この狭い空間に2人だと思うとドキドキ…した。
恐怖からのドキドキ…だ。
そう思い込もうとした。
私が来るのを知ってて海堂はロッカーの隙間から様子を伺って恐怖でヘロヘロになってる私を助けてくれたようだ。
見かけによらず優しい所があるのは知ってる。
小声で話すから距離の近さと息遣いが解る。
そして抱きしめられるような体勢の為に、海堂のフレグランスの匂いや胸板の広さ.腕の力強さを感じ、まるで海堂に包まれてる気がした。
狭いロッカーの中では身動き出来ず、これは仕方ない体勢だと自分に言い聞かせた。
それこそ……充分に、海堂を意識してる証拠。
緊張してる自分が解る。
私より15cm程高い海堂の顔を見て話した時には……キスされると勘違いする程の距離感。
思わず口元を見てしまい直ぐに顔を伏せた。
海堂からリタイヤの方法を聞かされホッとした。
このお化け屋敷から出れると言う気持ちと、この2人の空間から逃れられると言う気持ちからだった。
そしてロッカーの隙間から辺りを見て誰も居ない事を確認して、私をリタイヤさせてくれた。
海堂の話す通りに壁伝いで歩くと入口に戻った。
ガラガラ…開けると、桐生が開くはずのないドアが開いて驚いた顔をしてた。
桐生のそんな顔も珍しいと笑いそうになった。
「芳村⁉︎」
「本格的過ぎて無理‼︎ でも、良く頑張って作ったな。私は他も見回りしなきゃいけないから行くな」
行列になってる廊下を歩き、他クラスの様子やトイレ空き教室などを確認して回った。
教師も今日は見回りしながら参加する事も許され、私は文化部の展示を見たり体育館での有志や吹奏楽部、軽音部などの発表や劇を披露するクラスを見たりして束の間の時間を楽しんだ。
また見回りしながら職員室に行ったが、やはり教務室の方が落ち着けると思い教務室に行き、歩き疲れやらでソファに横になると、そのままいつの間にか寝てたようだった。
ウトウト……してる時に、何となく人の気配を感じた
その気配は海堂か?と思い、目を開け辺りを見たが……勘違いだったようだ。
教務室は私の他には誰も居なかった。
「あんな事あったから……意識しすぎ」
なぜ海堂だと思ったのか?
自分でも解らない……もしかして…いつもこのソファで昼寝する海堂の姿を眠りながら意識のない所で感じとってたのかも。
「…はあ~……重症だな」
海堂に対して突き放す事も出来ず普通に接しても意識する自分はどうすれば良いか解らずに居た。
翌日の一般公開の文化祭は親や近隣の学生やら中学生で盛況だった。
東京でも山奥の方で駅からも遠いが、私立校で喫茶店や模擬店などはお金も掛け良い物を提供し男子校で良家の子息も多いと言う事もあり、以前からうちの文化祭はなかなか評判は良い。
普段は入れない男子校に沢山の女子高生も興味深々で来校してた。
普段学校で見る事も居る事も無い女の子達に生徒も意気揚々と士気も高まって、まさにお祭り騒ぎだった。
閉鎖的な学校が開放的になる唯一の日だ。
多少の事は見過ごすのも教師達の間では暗黙の了解だったが、こう言う時こそテンションが上がり過ぎて何が起きるか解らないと、見回りを昨日より強化しその日は過ごした。
私達の心配を他所に、生徒達は楽しそうにガヤガヤ…賑やかに過ごしてた。
盛り上がった文化際も終わり…あとは受験のみだ。
誰1人悔いのない受験をして欲しいと、私もできるだけ協力するつもりだ。
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