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第58話
文化祭も終わり、その数週間後には祐一達と大学から願書を取り寄せた。
願書を見て ‘大学受験をするんだ’ と言う実感が湧いてきた。
他の奴らも同じだったらしく、芳村は願書の書き方を放課後に時間を作り細かな注意事項を話し願書例題文も資料として渡してくれた。
不安に思ってたクラスの奴らも少し安心したようだった。
「不安だと思うだろうから、1度下書きして私に見せて不備(記入漏れ.記入間違え)がないか確認してから、願書はボールペンで清書する事。良いな?」
『は~い』
そして大学の選考方法で多い小論文の書き方なども一緒に講義してくれ、資料も渡してくれた。
「与えられたテーマに沿って書くパターンと長文を読んで関連テーマについて書くパターンが多い。出題内容は専門分野に関する事から時事問題までさまざまだ最低でも自分の行く学部に関する本や資料は見ておくように。ニュースなどはTVやネットなど活用する事。小論文も一応注意事項や書き方などの資料は作ったから目を通すように。願書や小論文など受験で解らない事や不安な事は私に相談するように」
『は~い』
「願書から受験は始まってるからな。一応、願書と小論文に関しては、以上。解らない事は個別で聞く。気を付けて帰れよ」
芳村が教室から出て行くとザワザワ…と、あっちこっちから話し声が聞こえた。
皆んな受験に対しての不安を口にしてた。
伊織と祐一も俺の席に集まり
「何だか、いよいよ受験だな」
「願書とか見るとな」
「そうだな。俺、小論文マジでヤバいかも」
「芳村に聞けよ。これもチャンスだと思えば良いじゃん。小論文の事で相談すれば芳村と会えるしな。一石二鳥じゃん」
「そうだな。ポジティブに考えるしかねぇ~か⁉︎」
「そう.そう」
「あれこれ考えても受験は待ってくれねぇ~しな。やる事やんねぇ~と、後で大変な目に遭うのは自分だからな」
「確かに」
こいつらは余裕だろうけど……それでも俺の為に考えて話してくれてる。
俺も良い方に考えてやるしかねぇ~な。
一通り話し満足し帰ってくクラスメートと一緒に、その日は俺達も帰る事にした。
それから俺は芳村が居る時に図書室に現れ、カウンターに居る芳村に声を掛け、経営学に関する本を何冊か選んで貰った。
「取り敢えず、この3冊を読んで見ろ。あとは……これも一応軽く読むように」
渡されたのは小論文の書き方と言う本だった。
「解った。俺、マジで小論文…不安なんだけど」
「国語苦手だもんな?……解った。その本を読んで、何か1つのテーマで小論文書いて来い。見てやるから」
「助かる~!」
「頑張れ!」
そう言って笑い、俺の短く切った髪の毛を撫でた。
「海堂、似合ってるじゃないか」
願書に貼る写真の為に、髪を短くした俺を褒めてくれた。
「俺はどんな髪形でも似合うからな」
照れて、そんな事を言った俺は素直じゃない。
「本人がそう思ってるなら、それで良い」
「何それ~。解りづれ~」
クスクスクス…笑いカウンターに戻って行った。
俺は芳村が選んでくれた数冊の本を借り図書室を出た
それからの俺は夜寝る前に、芳村が選んでくれた経営学の本を読んでから寝るようにした。
始めは小難しい本かと思ったが、経営に関するノウハウや社長と従業員との関係.働き方…etcと考えさせられた。
俺もいずれは親父の跡を継ぐのは決定事項で、キャバクラ.クラブは数軒経営してるし、ビルも何棟か持ち貸ビルにし収入を得ている事もあり興味深い。
数日には1冊読み終わり、小論文を初めて書き、昼休みに教務室に行き芳村に見て貰う事にした。
自分では良く出来た方だと自信があった。
ガラガラガラ……
「芳村~」
「また、来たのか?」
「ん、でも3日振り~」
「ま、良いけど」
「この間図書室で借りた本を1冊読んで、小論文書いてみたから、見てくれよ」
「本当か~、どれどれ」
芳村に小論文を手渡し、机の前で芳村が読んでるのを黙って立って見ていた。
「海堂、初めてだから仕方ないが……感想文じゃないんだからな。渡した資料読んだか?この間図書室で一緒に借りた小論文の書き方は?」
「……そっちは読んでない。資料は見た」
自信があっただけに落胆した。
芳村から褒めて貰えると思ってただけに……。
「いいか。小論文ってのは、序論(前置きと結論).本論(体験.具体例.資料)本論(理由.具合例.資料やデータ).結論(結論)の4段落構成で考え、書いていくのが一般的だ。はじめ1割→なか4割→なか4割→むすび1割と言う具合だな。だらだら書くのでは無く、自分の意見や結論をはっきり書く事が大事だ。次は、それを意識して書くように」
「なる程~。全然考えてなかった」
「あとは、小論文書くに当たって注意事項も資料にあるから、良く読んで」
「は~い」
「返事は短く!……でも、小論文の練習をしようと言う心構えは偉いぞ!」
小論文を俺に返して頭を撫でられた。
芳村って、最後にはまたやる気を起こさせるんだよなぁ~。
「んじゃあ、また見てくれよ」
「解った。今日は寝る時間無くなったな」
「……まあな」
それから少し話し俺は教務室を出た。
小論文……か。
ま、お陰で芳村と話せたから良いけど……。
不安だな。
その後にも小論文を3回程芳村に見て貰った。
でも小論文を不安に思ってるのは、俺だけじゃなかった。
昼休みに教務に行くと、何人かやはり芳村に小論文を見て貰ってた。
今までは昼休みは俺と芳村だけの時間だったが……そう思うと寂しさと皆んなの芳村なんだと感じた。
芳村は昼休みも放課後も忙しそうだった。
いつも誰かが側に居た。
小論文.願書と聞きに来る者は後が立たなかった。
願書に関しては俺達3人も下書きを見て貰い、芳村のOKが出て清書し郵送した。
いよいよだ‼︎
ポストに入れた事でもう後戻りはできない、やるしかないと改めて思った。
それは余裕のある伊織や祐一もそう言ってた。
余裕があっても、受験生は合格するまでは皆んな同じ気持ちなんだと感じた。
願書が済み、今度は面接練習を行う芳村は本当に忙しそうだ。
できるだけ多くの生徒が希望大学に合格する為に一生懸命で、芳村の気持ちは皆んなに通じてた。
俺達は良い担任に恵まれた。
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