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第66話

やっと、芳村の部屋の前に着いた。 財布から鍵を取り出し……迷った末に、1度チャイムを鳴らした。 ピンポン♪ピンポン♪……少し待ったが出てくる気配は無かった。 「出て来ないって事は、よっぽど具合悪いって事か⁉︎」 俺は手にしてた鍵を使いドアを開け部屋の中に入った 夏休みに、こっそりお守りとして勝手に作った合鍵がこんな事で役に立つとはな。 合鍵を勝手に作った事を知ったら、怒られるだろうな 急いで、玄関で靴を脱ぎリビングに行くが芳村の姿は無い。 夏休み以来だなと思いながら、寝室に向かった。 ベットに寝てるのが解り側に行くと、芳村は赤く熱があると解る顔で目を閉じてた。 冷えピタを貼ってたから、熱はあるんだろう。 俺は傍らに膝を着き声を掛けた。 「芳村」 返事はなくゼェゼェ…荒い息だけだった。 額には冷えピタが貼ってあり、俺は熱を確認しようと首筋に手を当てた。 「熱いな」 汗も凄く掻いてた。 俺は寝室を出て洗面所に行き濡れタオルを用意し戻り芳村の顔や首筋を拭き布団をめくりパジャマの前を開け上半身だけでも拭いてやろうとした。 「……やっぱり」 芳村の胸から腹に掛けて、数個の鬱血の跡があった。 自分の無意識であった行為だったが……自分の犯した罪をまざまざと思い知らされた。 手に持ってた濡れタオルで拭ける範囲の胸や腹と背中を拭き終えパジャマを元に戻し、布団を掛けタオルをサイドテーブルに置く。 サイドテーブルには朝測ったのだろう体温計と風邪薬.冷えピタ.お茶が用意されてた。 朝起きた時には、熱があったんだろうな。 用意周到にされてた物を見て、芳村らしいと思った。 冷えピタを取り替え体温を測る。 ピピピピ…… 「39°1分…か。高いな」 これから夕方までもっと高くなるかもしれない。 俺は一旦芳村の部屋を出て、夏休みに2人で行った事がある商店街に向かった。 早く熱が下がってくれ! そう願いながら商店街まで走る。 懐かしく思いながら来た事があるスーパーで、スポーツドリンク数本とお粥のレトルト3つを籠に入れ……考えた。 「あとは……朝に食べたゼリーも美味しかったな」 今日の朝にテーブルに置いてあったゼリーを食べた時に、口当たりも良く美味しかった事を思い出した。 ゼリーと適当にパンも買い、急いで芳村の部屋に戻った。 合鍵で部屋に入り勝手に冷蔵庫に仕舞い、寝室のドアをそぉっと開け側に寄って行くと、芳村はさっきまでと同じ状態で寝ていた。 ゼェゼェゼェ…荒い息。 俺が無理させた所為だ。 ベット脇に座り、芳村の手を握り謝った。 「芳村、ごめんな。俺の所為だ。本当にごめん。早く良くなってくれ!」 辛そうな息遣いと赤い顔の芳村に何度も謝った。 「ゼェゼェゼェ…泣くな…ゼェゼェ…」 力が入らない手で、俺の手を握り返し話す。 「芳村!」 意識があるのか?呼んでみたが、返事は無く荒い息のまま目を閉じてた。 混濁する意識の中で、無意識に握り返したんだろう。 俺の声が遠くで聞こえてる気がしてるか?夢を見てると思ってるんだろうな。 俺がそうだったように。 握ってた手に額を合わせ、早く良くなるように祈った そして知らず知らずのうちに手を握りしめ、ベットに頭を乗せ寝てしまった。 朝から体が怠く熱っぽい感じがした。 念の為に、熱を測ると38°5分あった。 迷った末に、今日は体調が悪く休む旨の電話を学校に入れた。 一応、風邪薬と冷えピタを貼り、ベットに入ってゆっくりしてれば治るだろうと思ってた。  暫くすると、体は熱くなり息も荒くなり熱が出始めた 熱が出始めると寝たり起きたりと、徐々に意識が混濁し始めた。 もう後は意識が薄れていった。 どの位時間が経ったのだろう。 遠くから誰かの声がする。 辛そうな声で何度も謝ってる。 何を謝ってるのか? 何度も謝らなくて良いんだよ。 ……泣いてると思った。 聞いてるこっちまで辛くなるその声に ‘泣くな’ と思わず声を出したが、聞こえただろうか? そしてまた意識が遠のく……。 何だか沢山の夢を見てた…気がする。

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