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第68話
俺の頭を撫でる手は…優しい。
この手……知ってる。
いつも俺の頭を撫で励まし褒めてくれる……芳村の手だ!
俺はハッとなり頭を上げた。
俺……また寝てた⁉︎
「……海堂…お前、ずっと…看病しててくれたのか?」
芳村の声⁉︎
「芳村、起きたのか⁉︎ 体調は⁉︎ 熱は⁉︎ どこか痛く無いか⁉︎」
クスクスクス……
「そんなに一辺には、答えられないって」
「じゃあ…体調は?」
「ん…そうだな。だいぶ楽になった……けど、寝てばっかりだから、あっちこっち痛いかも」
「そうか、熱は?ちょっと触ってよいか?」
「……ああ」
額は冷えピタが貼ってるから俺は首筋を触ると、芳村はビクッと一瞬だけした。
ちょっとだけ……傷付いたが、自業自得だとも思った
芳村がこうやって普通に話してくれるだけでも…有難い。
「熱はだいぶ下がったが、まだ油断できない。荒かった息遣いもなくなったな。でも、声が掠れてる。ゼリー位は食べられるか?何か、口に入れて薬飲んだ方が良い」
「じゃあ…ゼリー貰う」
「ちょっと待ってろ」
少しでも食欲出てきたなら良かった。
冷蔵庫から桃のゼリーを取り出しスプーンと一緒に持ち、ベットに上体を起こし座ってた芳村に手渡す。
「起きて大丈夫か?ほら」
「うっ…冷えてて、美味しい」
「少しずつ食べた方が良い。朝から何も口にして無いんだからな」
「ん…解った」
小さくスプーンに取り口に入れる。
その姿を食べ終わるまで眺めてた。
「食べたか?次は、薬!」
薬を手渡しスポーツドリンクを渡す。
俺に言われるがままの芳村は素直で可愛い。
弱ってるからだろうか。
スポーツドリンクをゴクゴク…勢い良く飲み、俺に渡し、今度は芳村が俺を質問攻めにした。
「海堂…お前、学校は?寮は?今、何時だ?」
ずっと意識なく寝てた芳村は時間の感覚が無いらしい
「今は、夜中の1時だ」
「えっ! 嘘!」
「嘘じゃない。俺…今日、学校行ったら……芳村が体調崩して休みだって知って……居ても立っても居られなくって、午後から具合悪いって早退して…芳村の所に来た。寮の方は大丈夫」
「大丈夫って……。この時間じゃもう帰れない…か。ったく、お前って奴は…仕方ない奴だ」
起きた時に、どんな態度取るのか不安だったが……芳村は普通に話してくれる。
でも……俺は……。
「芳村」
「何?」
「芳村、ごめん! 謝って済む事じゃないけど…謝らせてくれ! 幾ら、熱で意識がなかったとしても…俺…夢だと思って……本当に、ごめん」
俺はベットに頭をつけ謝り何も言わない芳村にやっぱり怒ってるよな、いや怒りか⁉︎
顔を上げ芳村の顔を見ると、引きつった顔をしてた。
その話題はしたくなかった⁉︎
それでも俺は触れずには居られなかった、いや謝りたかったんだ。
「……その事は、明日話そう。今は何も言うな」
「…解った。もう一度だけ…本当に、ごめん!」
「お前は体調は?良くなったのか?」
「ああ。大丈夫だ」
「そうか」
「…………」
「…………」
拒絶はされなかったが2人共無言になり、気不味い雰囲気になった。
先に、芳村がその雰囲気を打ち消すように口火を切った。
「今日は……もう、ここに泊まれ」
「俺、ずっと看病するつもりで居たから…。あの様子なら、朝まで起きないと思ってたから」
チラッとサイドテーブルを見た芳村は「薬、飲ましてくれたんだな。そのお陰だな」と話す。
俺は口移しで飲ました事は言えずに黙ってうなづいた
「そうか、ありがとうな」
「芳村、そろそろ横になった方が良い。俺、リビングのソファに居るから、何かあったら呼んでくれ」
熱は下がったとしても、まだ本調子じゃない芳村はのろのろ…ゆっくりとした動作で横になったのを確認して、俺は立ち上がった。
「海堂!」
「何?」
「……病み上がりのお前をソファに寝かせられない……ここに寝ろ」
布団を捲りベットの半分を空けてくれたが……俺は頭を横に振った。
「……芳村……あんな事した俺が怖く無いのか?……隣に居るの……嫌だろ?」
「……どうかな。海堂自身は怖くない……それに反省して後悔してるのが解るから……流石に、今日は手出しはしないだろ?」
「病人に手出しする程、鬼畜じゃね~よ」
「なら、ここに寝ても大丈夫だろ?ソファなんかに寝たら折角体調戻ったのに、また悪くなったら私も困る」
俺の体調を心配してくれる芳村は本当に優しい……あんな事した俺に……。
「そんな所に突っ立ってないで、早くしろ! 寒い!」
「……解った」
俺は服を着たまま芳村の隣に少し間を開けて横になると、芳村は「寒い!」と言って、俺に近づき俺の頭を抱え胸に抱いた。
「……良いのかよ…こんなにくっついて」
俺は嬉しいが、やはり好きな奴が側に居るとドキドキ…する。
流石に病人に手出しはできないと、何度も心で言い聞かせた。
「さっきの海堂の態度で……信用してる。もう黙って寝ろ!」
「……おやすみ」
「おやすみ」
芳村は俺の頭を抱え顔が胸に埋まり、汗の匂いと芳村自身の匂いに包まれ、こんな時だが安心できた。
やはり芳村の体はまだ熱があるようで熱かった。
出来れば、俺が芳村を胸に抱いて寝たかったが……俺が後悔して自分を責めてるのが解ったんだろう、俺を宥めるような行動の芳村の優しさと包容力に包まれるのも悪く無いと思った。
頭上の芳村は暫くすると、スースー…寝息が聞こえた
俺は芳村に抱かれベットから足が出てた。
こんなに密着し下半身が反応してしまわないように腰を引いて何とか眠りに就いた。
海堂を胸に抱き頭を抱えた体勢でベットに横になってた。
なぜ、自分がそんな事をしたのか?解らない‼︎
けど……海堂が自分を責め何度も謝り後悔してるのが痛い程解った。
まるで私に捨てられたら…と、不安で仕方ないと言う気持ちが表情に出てた。
いつもは太々しく強気で強引な海堂が……そんな弱さを隠しもせず見せた顔を見たら拒絶も無視する事もできなかった。
また海堂が孤独を感じてしまわないように…迷子の子供みたいで……放って置けない。
今日だけは1人で寝かせたくなかった……側に居てあげたいと思った。
……それだけ…だ‼︎……深い意味はないと自分に言い聞かせた。
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