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第69話
あったけ~な。
すげぇ~落ち着く匂いだ。
今日は、このままずっと寝て居たい。
そう思うが……目が覚めてしまった。
俺は誰かに抱きしめられてた。
「……ん」
少しだけ顔を動かすと見覚えのある……あっ! そうだ、昨日……芳村の看病に来て、そのまま泊まったんだった。
ずっとこのままの体勢で居たいが…芳村の具合も気になる。
昨日の夜中に起きた時には、だいぶ熱も下がってたが……。
熱を確認しようと、もぞもぞ動くとギュッと頭を抱えられ、顔が胸にギュッと押しつけられる。
密着が……ヤバいって。
ただでさぇ……男の生理現象で朝勃ちしてんだからよぉ。
落ち着け! 落ち着け‼︎
数学の公式を……ぶつぶつ…呟く。
「……んん…煩いなぁ~…えっ! 海堂⁉︎」
胸に抱いてた俺を見て驚く。
「おはよ。芳村……具合は?熱は?」
俺が体調を心配すると、やっと昨日からの事を思い出したようだった。
「ああ、そっか。昨日、看病に来てくれたんだったなん?熱は…たぶん大丈夫、具合も悪くないけど、汗掻いたから気持ち悪い」
「シャワー浴びる?」
「ん、そうする」
抱えてた俺の頭を離し、起きようとする芳村に手を貸してやる。
離れてしまう体が残念に思いながらも、顔には出さない。
ベットを出て立ち上がる時もずっと寝てたせいもあり少しふらつく体を支え、着替えを持った芳村を横抱きにし浴室に歩き出した。
「か.海堂‼︎」
「こっちの方が早い‼︎ 大人しくしてないと落ちるぞ」
芳村は大人しくなり、そのまま浴室に運びそぉっと脱衣所の床に下ろす。
「シャワー浴びたら、また呼べよ」
芳村をその場に置き俺はリビングに行き、昨日から殆ど食べてない芳村の為にレトルトのお粥を温め冷蔵庫からゼリーも取り出し、ソファのテーブルに用意して待つ。
数10分程で芳村がよたよたと足元も危うい感じで歩いて来たのを見て、慌てて駆け寄る。
「呼べって言っただろ!」
「も…大丈夫」
芳村を支え歩きソファに座らせた。
「ああ、さっぱりした~」
「そうか、取り敢えず熱測れよ」
体温計を渡すと黙って受取り脇に挟む時に、胸元のキスマークの跡がチラッと見えた。
……きちんと謝って話さねぇ~と。
暫くすると、ピピピ…と鳴った。
「37°5分だ。もう大丈夫」
「熱は下がったが油断しない方が良い。お粥なら食べられるか?食べたら薬飲んで、今日はゆっくりしてろよ」
用意したレトルトのお粥を口にしたのを確認して、俺もパンを横で食べ始めた。
「美味しい……。お前、それだけで足りるのか?」
食欲も少しは出たな。
自分の事より俺を心配してくれる。
「大丈夫だ」
ゆっくり味わうように食べる芳村。
時間を掛けお粥を食べ終わりゼリーを渡すが「今は要らない」と言われ、食器を片しながら冷蔵庫に持って行った。
スポーツドリンクを冷蔵庫から取り出しソファに戻る
「ほら、水分はたくさん取った方が良い。あと、薬飲めよ」
「何だか、口煩い父親みたいだな」
そう言って笑い、薬を口にしスポーツドリンクで流し込んだ。
あとは冷えピタを取り替えてやり、一応これで大丈夫…か。
俺はきちんと芳村と話をしようと口を開いた。
「芳村……ごめんな。謝っても許される事じゃねぇ~けど……それでも謝らせてくれ! 本当に申し訳ない‼︎」
俺は胡座を掻いてた体勢から居住まいを正し、正座して謝った。
「…………」
芳村からの返事はなく、俺を見ずにどこか1点を見つめてた。
怒ってるよな⁉︎
それでも謝るしかない‼︎
「……言い訳がましいかも知れないが……俺、てっきり夢だと思ってた……やけにリアルな夢だと……今までも芳村の夢見た事あったし……芳村の気持ちを無視して……俺の欲望をぶつけてしまった……幾ら、意識が混濁して夢だと思ってたとしても……本当に、ごめん‼︎ 」
俺はまたラグに頭を擦りつけた。
「………何も無かったし何も聞いて無い……お前は夢を見てたんだ。私は……海堂の部屋に、様子を見に行っただけだ」
私は色々考えた末に、何も無かった事にしようと思った。
海堂が罪の意識に後悔する事は目に見えてたし……お互いの為に、それが一番良いと判断した。
「えっ! そんな……」
芳村の言った事が信じられない‼︎
あの胸に残ったキスマークが何よりの証拠だ。
それでも芳村は何も無かった事にしようとしてる⁉︎
それは俺の為か?
昨日は ‘明日、きちんと話をしよう‘ と言ってたはず……何で変わった?
俺の気持ちを知ってるはず……これ以上芳村に踏み込ませない為か?
知らない振りや気づかう振りで、やり過ごすつもりなのか⁉︎
芳村がそのつもりでも……もう俺は戻らない‼︎
俺の気持ちを全て話す‼︎
「そうか……夢だとしても…芳村がそうしたいなら……それならそれで良い。俺はずっと芳村が好きだ‼︎ 初めて会った時から好きになった…殆ど一目惚れだ! それから芳村の誰にでも公平に接する態度や裏表がない性格や優しさ.クラスの連中と一緒に楽しもうとする姿勢とか……言い出したらキリがねぇ~けど、俺は芳村を知れば知る程、どんどん好きになった。精神面や性格から好きになって……そのうちに芳村に性的な欲望も抱くようになった…だから芳村との夢も見てた……だからあの時は熱に浮かされて夢なのか現実なのか……解らなかった」
芳村は黙って俺の話に耳を傾けて居た。
俺は今話さないともう言える機会を与えて貰えないと思い、今の俺の気持ちを正直に話した。
「俺は精神面でも性的な意味でも、芳村が欲しい‼︎ 好きで好きでたまんねぇ~んだ‼︎ 初めて人を信頼し好きになった。芳村が好きなんだ‼︎ 俺の者になれよ‼︎」
これまで本人に面と向かって言えずに居た想いの丈を全て話した。
これでもう後戻りはできない……前に進むだけだ‼︎
「……お前達の年頃には、好きと憧れを勘違いして…そう思い込んでるだけだ。良くある話だ」
海堂の切なそうな振り絞る声で……嘘じゃないと解るが……素直には受け取れない。
私は教師で…それに何より男同士だ、年齢だって離れてる……年上の私が…戒めてやらなければ…。
「何それ?俺の気持ちをそんなもんだと思ってんのか⁉︎ 年上で教師とか男同士とか、そんなのは解ってんだよ! それでも、そんなの関係なく俺は芳村の人間として尊敬してるし信頼もしてる! そんな生半可な気持ちとは違う‼︎ 俺には芳村が必要なんだ! 俺を好きになれよ‼︎ 余計な事考えずに俺の事だけ見て考えろ! 好きか嫌いかのどっちかしかねぇ~だろ⁉︎ 俺は芳村が好きだ‼︎ 誰に何と言われても、俺の気持ちは変わらない‼︎」
俺の顔を見ずに一点を見つめてた芳村の顔を向かせ、両肩に手を掛け真剣に話した。
芳村の目が俺をジッと見つめた。
そう‼︎この目だ!
人の心の底の真意を見ようとする…この目が好きなんだ‼︎
「……好きか嫌いか聞かれたら……嫌いじゃない」
好きとは言えず嫌いとも言えない。
そう誤魔化すしか無かった。
生徒として…海堂の人間性も……好きだけど……海堂の好きとは違う‼︎ 絶対に!
「何だよ、そんな誤魔化すような言い方は芳村らしくねぇ~。………そうか、解った。俺の気持ちは言ったし芳村も知ってる……芳村がそう言うつもりなら、俺はこれから遠慮はしねぇ~。芳村が俺の事好きになるまで積極的にいく。芳村は絶対に俺を好きになる、いや好きにさせてみせる。そのつもりで居ろよ」
上から目線になったが、芳村にはこの位言わないと効かないと思った。
「どうしようって言うんだ?」
海堂の考えが解らない。
でも…私を真っ直ぐに見る目には、情熱と決意が見て取れた。
この熱い告白と情熱に……流されてしまいそうだ。
そう言う意味で……海堂が怖い!
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