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第78話

結局、はっきりとしないまま24日を迎えた。 22日から冬休みに入り帰省し、今日は実家から電車に乗って江ノ島駅に降りた。 駅前の目立つ所で芳村を待ってた。 「来るかな⁉︎」 来ないかも知れない……それでも俺が気が済むまで待つつもりだ。 海も近く潮の匂いと寒さが身に染みる。 今までは断られると思い接触を極力避けてたが、昨夜は芳村に直接電話した。 なかなか出ない電話に業を煮やしたが、やっと芳村は出た。 「……もしもし」 「俺だ、海堂! 明日、解ってるよな⁉︎ 11時に江ノ島駅前だからな⁉︎」 「…………」 返事が無いが……それでも俺は強気に言い放つ。 「来るまで待ってる‼︎ 何時間でも待ってるからな。芳村、もう観念しろよ‼︎ じゃあ、本当に来るまで待ってる‼︎」 どうせ芳村からの返事は無いと思い、そのまま電話を切り電源も切った。 考えた末に、断りの電話が鳴らないようにした。 朝に電源を入れたが……芳村からの着信は無かった。 さて⁉︎ どうする? スマホを確認するが芳村からの連絡は無い、そして時間は、待合せの11時になろうとしてた。 「……まだか?」 まだ時間じゃない! 数分経ち、11時を過ぎた。 来ないか? 道が混んでるのかも? 芳村の性格からして、待合せに遅れる事は無い気がした……遅れるなら連絡はくれるだろうし。 ずっと手にしてたスマホの電話は鳴る事が無かった。 来るまで待つって言ったんだ‼︎ 1時間でも2時間でも……こうなったら俺が気が済むまで諦め切れるまで待ってみよう。 駅前に立ち竦み海風と寒さに体が冷えた。 くそぉ~、手袋してくれば良かった。 でかい体を丸め、コートのポケットに手を突っ込み寒さに耐え待ち続けた。 また時間を確認すると……12時近かった。 うう…さむ~。 近くのコンビニで、温かい飲み物でも買って来るかな⁉︎ いや、買いに行って、その間に芳村が来たら……すれ違いになるかもしんねぇ~し。 そう思うと、その場を動けなかった。 やっぱ来ねぇ~か?  今頃は、彼女と一緒…か? それでも何の連絡も無い芳村に一縷の望みを託してた 芳村なら何らかの電話が合っても良いはず…。 それにしても寒い! そりゃそうだよな、12月だもんな! う~さむ~‼︎ その時、俺の前にスーっと車が着けられ、運転席の窓が開き芳村が顔を出した。 俺は寒さと芳村が来てくれた嬉しさで、上擦った声で呼んだ。 「よ.芳村」 「……遅くなった……寒いだろ?早く乗れ」 来てくれた‼︎ 心から喜び、急いで助手席に乗り込んだ。 車内は暖房が効いて暖かく、さっきまでの寒さが消えていくようだ。 「か………」 芳村に「彼女は良いのか?」と聞こうとして止めた。 何だか聞く事が無粋な気がしたし……今、ここに来てくれただけで嬉しかった。 彼女より俺を選んでくれた⁉︎ そう思うと嬉しさが倍増した。 「寒かっただろ?水筒にホットコーヒーを入れて来たから、飲んで温まれよ」 「ああ」 後部座席にあった水筒を取り出し、ホットコーヒーを注ぎ口にした。 あまりコーヒーは飲まない俺を考えてくれたのか?薄いコーヒーで体の隅々まで温かさが染み渡った。 「あったまる~」 「……ごめん。寒かったよな……出発する時間まで悩んでた……だから…出るのが遅くなって渋滞に巻き込まれた……」 寒そうな俺を見て、芳村は申し訳無さそうな顔をして話した。 「良いよ。悩んでもこうやって来てくれたし」 「渋滞に巻き込まれて連絡しようと思えば出来たけど……しなかった……遅れて…海堂が帰ってくれたらと思ったけど……。お前が ‘来るまでずっと待ってる!’ って言うから……海堂ならやりそうだし……とも思った。寒い思いさせた…ごめん」 「良いよ、そう何度も謝るなって。俺は最初からそのつもりだったし、無理を言ってるのは俺だ! もし……すっぽかされても文句言う立場でもねぇ~のは解ってた。でも、こうやって来てくれただけで嬉しかった。もう気にすんな‼︎ 今日はクリスマスイブだぜ?楽しく過ごそうぜ…な?」 いつもは芳村が俺の頭を撫でるが、今はしゅんと気落ちしてる芳村の頭を撫でた。 サラサラして触り心地が良い。 「……ありがと」 「腹減ったし、昼飯食べに行こう」 「どこに行く?」 「俺、イタリアレストラン予約したから、そこ行こうぜ」 「えっ‼︎ 予約してたのか?……私が来なかったら、どうするつもりだったんだ?」 「別に……絶対来ると思ったし」 「はあ~、どこからその自信が出てくるのか?不思議だ」 「良いから.良いから。ここだ! ナビするから、早く行こうぜ!」 予約したレストランの検索画面を見せた。 「ここ?ん、解った」 車を発進させ予約したレストランに向かった。 隣に芳村が居る! 暖かい車内で冷えた体も挫けそうだった心も温まっていく。 芳村は俺を選んでくれた‼︎ 今日だけかも知れねーけど………大学合格祝いのご褒美だとしても……それでも良い。 クリスマスイベントの日に俺と過ごす事を選んでくれた! そう思うだけで嬉しさが広がり忘れられないクリスマスにしようと思った。

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