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第82話

「うわぁ~凄い♪綺麗だ~♪」 「良かった~、間に合った」 水族館から1番近い海岸に歩いて来た。 オレンジ色の夕日が海に良い感じで沈んでいく所だった。 海岸には近所の人が犬の散歩し、観光客らしき人達も数組浜辺で沈む夕日を眺めて居た。 「あっち、行こうぜ」 俺は人気の無い場所に、芳村と移動する為に手を繋ぎながら歩く。 「海堂は海が好きなんだ?」 「ん~、すっげぇ~好きなわけじゃねーけど、好きか?って聞かれたら、まあ好きな方かな。学校が東京だっつーのに、あんな山奥で閉鎖的だろ?だからかなぁ~、海の広さや解放感が良いと尚更思う」 「解るなぁ~。私も学生の時以来かも知れないなぁ~」 「じゃあ、ゆっくり堪能しようぜ」 夕日が良く見えて人気が無い場所を見つけ、砂浜に芳村を座らせ俺はまた背後から抱きしめる体勢でコートに芳村を包み込んだ。 「これで寒く無いだろ?」 芳村の肩に顎を乗せ話す。 「ん…ありがと」 沈む夕日のオレンジ色が海に反映し、凄く綺麗でロマンチックだった。 「凄く綺麗だ。こんな夕日が見られるなんて」 「芳村にこの光景を見せたかった、違うな、2人で見たかった。今日は寒かったけど、天気良かったから綺麗な夕日が見られると思ってた。こうやって2人で、この夕陽を見れて嬉しい」 抱きしめる手にギュッと力が入った。 腹に回した腕に芳村はそっと触れた。 「ありがと……私もこんな光景見れて嬉しいよ」 顔に似合わず、案外、海堂ってロマンチックなんだ。 私を喜ばそうと、今日一日色々考えてくれたんだな。 水族館もこの夕日の海も、そして行けなかったけど鎌倉もこうして寒さから私を守ってくれる事も……海堂の本質が解る優しさを感じた。 今日一日で、学校では見せない海堂の新たな一面を知った気がした。 ゆっくり.ゆっくり沈む夕日を眺め、静かな2人だけの時間を過ごした。 今日だけは…今日ぐらいは……海堂の好きに…ううん…私も少しだけ素直になろう。 この夕日を見てそう思った。 静かな時間が過ぎ、海をオレンジ色に染めてた温かさを感じてた夕陽が沈むと、辺りは薄暗さと寒さを感じる。 芳村の背後からギュッと抱きしめ、肩に顎を乗せたまま耳元で囁く。 「沈んだな。寂しく感じる」 「そうだな。でも、明日の朝には朝日がまたこの海をオレンジ色に染めて登ってくる」 腹に回した腕を摩り当たり前の事を話すが、俺は妙に感動した。 そうだよな、夕日が沈まないと朝日は出てこない……今日が終わらないと明日はこないって言われた気がした……そして明日も頑張って、毎日を過ごす事が大事な事だと思った。 今までそんな事は感じた事が1度も無かったが夕日1つでも何らかの意味があるんだなぁ~と考えさせられた。 「何だか、深いよな~」 クスクスクス…… 「そう?普通の事を言ったまでだけど?」 「ま、そうだけど。毎日毎日、面白ろ可笑しく何にも考えず暮らして、それが一番だと思ってた。こうやって芳村と沈む夕日を見て考えさせられた」 クスクスクス…… 「そうやって大人になってくって事だよ」 そうか……子供扱いする芳村に俺は早く大人になって、芳村に見合う人間になりたいと思った。 まだまだ……芳村から見れば子供なんだろうな。 それが少し悔しかった。 「芳村、寒くないか?そろそろ車に戻る?」 「そうだね。暗くなって来たし戻ろう…か」 少し、この温もりが無くなるのが寂しいと思った。 「じゃあ、行こうか」 私の背後から立ち上がり手を差し出された。 海堂の温もりが、やはり背中に無くなった事が……寂しい。 そんな事を思ってるとは顔には出さずに、差し出された手を掴み立ち上がると、そのまま手を繋いで海堂は歩き出した。 私も手を振り解こうとはしなかった。 波の音が聞こえ、人気の無い海辺を手を繋いで歩き駐車場まで来て車に乗り込み直ぐにエアコンをつけた。 「芳村~、腹空かねぇ~?」 帰るのか?と思ったが、夕食も一緒に行く口振りだった。 海堂がデートプラン考えたって言ってたし……夕食までがデートプランに入ってるんだろうな。 「そうだな」 「俺、19時にディナー予約してあるんだ。行こうぜ。鎌倉に行ってから、食事しようと思ってたから。俺がナビするから行こうぜ」 私の為にディナーまで予約してたのか。 「鎌倉か。解った、ナビ頼むな」 海岸沿いの道を車を走らせる。 30分程走らせると鎌倉の市街地に入り、そこからは海堂がスマホを見ながら「ここの道、真っ直ぐ」「次の信号、左」「道なりに行って」「2個目の信号、右」と指示に添って車を走らせた。 海から少し離れて市街地に入ると、店も多く住宅も多くなってきた。 どこのレストランだろう? 海堂の指示に従い車を走らせると 「そこ右に曲がって、地下の駐車場に入るから」 「………解った」 そして地下の駐車場に車を止めた。 「お疲れさん。行こうぜ」 「海堂……ここ?」 「そう、ここでディナー予約してる」 そう言って車から降りた海堂を追うように、私も車から降りた。 地下の駐車場から上昇するエレベーターに乗り1階で降りた。 「ちょっと待ってて。直ぐに戻るから」 「……解った」 広いフロアを見回した。 高そうな所だなぁ~。 海堂が予約してるディナーは、どうやらホテルのレストランでのディナーらしい。 品が良いフロアに、大きめなクリスマスツリーが飾ってあった。 あっ! クリスマスツリー! 綺麗に飾られたクリスマスツリーはホワイトツリーでこれもホテルの気品と雰囲気に合うツリーだった。 ボーっとツリーを眺めてると海堂が側に来た。 「綺麗だな」 「うん! ホワイトツリーも良いね。凄く品がある」 「このツリーの前で写メ撮ろうぜ!」 「えっ! いいよぉ~」 品があるホテルでちょっと恥ずかしいと思ったが、海堂は気にせずに近くのホテルマンに頼みスマホを渡し私の肩を引き寄せ少し顔を寄せホワイトツリーの前で数枚写メを撮って貰った。 スマホを受け取り写真を確認して微笑む海堂は嬉しそうだった。 「行こうか?」 先を歩く海堂を追いながら思った事を口にした。 「海堂、ここ高そうだけど…」 「まあな。安くは無いけど、思ってるより高くもないから大丈夫だ。折角のクリスマスだからな」 高くない? そうは到底思えない気品があるホテルだった。 海堂は少し庶民感覚がズレてるのかもな。 違うか、あの学校は殆どが裕福な家庭ばかりだったな 海堂の実家も極道だが、裕福な家庭だったな。 そんな事を考えエレベーターに乗ると、何組か一緒に乗り込んで上昇していく。 品がありそうなご夫婦だったり綺麗に着飾った女性と高そうなスーツを来た男性のカップル達に、私は少し庶民的な格好で居心地が悪かった。 場違いな気がする。 隣の海堂を盗み見ると堂々としてる。 「降りるぞ」 「えっ!」 エレベーターの扉が開き、海堂に手を引っ張られ降りた。 沢山の部屋の廊下を手を繋ぎスタスタ…黙って歩く海堂に引っ張っられる形で着いていく。 そして1つの部屋の前で止まり、コートのポケットからルームキーを出し差し込む。 部屋を開け入って行く海堂の後ろ姿をたじろぎ入口で眺めてた。

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