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第83話

「何してんの?入れよ」 部屋の中から、入口で立ち竦む私に声を掛けてくる。 「……………」 返事も出来ず、このまま部屋には入らず帰ってしまおうか?それとも黙って入るべきか?悩む。 さっきまで強引に、引っ張って来た癖に! あのまま強引に部屋に連れ込んでくれれば、こんなに悩まずに済むのに。 急に手を離しスタスタ…と、部屋に入ってしまって……残された私は……どうしたら良い? 私の意思で入って来いって事だろうな。 悩んでると、もう一度声を掛けて来た。 「寒いだろ?暖房入れたから」 普段の声で話し掛けてくる海堂。 私の考え過ぎか? 悩んでも仕方ない……ここまで来たんだ。 海堂を信じるしか無い。 1歩足を踏み出し…海堂が待ってる部屋の中に歩く。 部屋の中は暖かく、そして広かった。 リビングと浴室.トイレ……そして寝室の扉。 高さそうだとは思ったが……一般的なホテルより広い ソファに座って、私が来るのを待ってた海堂は立ち上がり、笑顔を見せ近づいて来る。 「ようこそ! クリスマスにレストランで男同士でディナーも居心地悪いかなって思ってな。ルームサービスにしたんだ。その方が気が楽だろ?」 海堂の話した内容に、緊張が解けホッと肩を下ろした やはり私の考え過ぎだった。 海堂は私の事を考え、レストランではなくルームサービスにしたんだ。 「……ありがと」 「ちゃんとクリスマス仕様の食事を予約したから。レストランで食べてもここで食べても同じだ……芳村、ちょっと変な事考えた?」 私の顔を覗き込み悪戯っ子の顔で笑ってた。 「か.考えてないよ! 海堂の方こそ考え過ぎだ」 図星を突かれて焦って言い訳をしたが、海堂にはお見通しだと思うが知らない振りをしてくれた。 「そうか。後、30分位で運ばれて来ると思うけど、海行ったから潮風でベタベタしてるしシャワー浴びる?風呂に入って体温めた方が良い」 シャワー?お風呂? 確かに潮風でベタベタはしてるけど……。 「私は良いよ。海堂、入ってくれば?」 「そう?じゃあ、お言葉に甘えて先に入ってくる。ルームサービス来たら頼むな」 そう言って私の頭を撫で、浴室に消えていった。 私はソファに座り「はあ~」と息を吐いた。 食事の為だけに部屋をキープしたのか? レストランで好奇な目で見られない為に? 海堂が今日一日のプランを本当に良く色々考えてくれたんだ……全て私の為に。 ゆったりとしたソファは凄く座り心地が良く、張り詰めてた気持ちが緩み、部屋の暖かさで少しうとうと…してしまった。 ザァザァザァ…… 熱いシャワーを浴び髪も体も洗い終え、広めの湯船にゆったりと体を休めた。 芳村……帰ってないだろうな? 俺はここまで2度程芳村に対して選択肢を与えてた。 本人は気付いて無いのかも知れないが……。 1度目は、この部屋に入る時。 部屋に入らずに帰るって言う選択肢だ。 あのまま強引に部屋に連れ込んでも良かったが、芳村自身の意思で入って来る事を俺は望んだ。 随分、色々考えて悩んでみたいだが……部屋の中に入って来てくれた時には、マジで嬉しかった。 抱きしめたい気持ちをどうにか抑えた。 そして……今もまた芳村が後悔しないように、考える時間を与え帰る機会を与えてる。 本当は帰ってほしくは無いが……芳村自身が後々…後悔しないようにして欲しかったからだ、そして…ここに居るのは飽くまで芳村自身の意思だと言う事を解って欲しかった。 「やっぱ時間与えなかった方が良かった…か?失敗したかもな」 部屋に戻ったら、芳村の姿はないかも知れない。 俺は芳村自身に賭けてた! 着てた服は全てホテルのクリーニングに出す為に袋に入れた。 後で、ルームサービスの時にホテルマンに渡せば良い。 明日、帰るまでにはクリーニングされて戻ってくるし、これから部屋を出る予定はない。 芳村はどう思ってるか知らないが、俺は今日このホテルに芳村と一緒に泊まるつもりだ。 まだ、部屋に居たら…だけどな。 そして俺はバスローブに身を包み浴室を出た。 芳村が部屋に居る事を願って…。 部屋に居たら、もう逃がさない‼︎ 逃げる機会は2度与えたんだからな。 ドキドキ…高鳴る心臓と不安を抱え、部屋に戻った。 部屋の中を見回したが……芳村の姿は見当たらない。 「…芳村?」 落胆した声で呼ぶが返事は無かった。 「帰った…か」 芳村に考える時間を与えたのを後悔した。 やはり強引に事を運べば良かった……でも、それだと俺に流されただけだ! 俺は芳村自身の意思でここに居る選択をして欲しかった……が、カッコつけるんじゃなかった。 「はあ~」 溜息を吐き、がっくりと肩を落とし気落ちしトボトボ…ソファに近づいた。 バカな事した……俺らしくなかった。 芳村が居ない俺1人の部屋の中で、何度も心で呟いた。

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