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第95話
明日から芳村が休みに入る日の夜に電話を掛けた。
いつもの様にたわいのない話しをしてた。
俺はずっと忙しそうな芳村に休暇の事は聞けずに半分諦めてた。
当初の予定通り帰省するんだろうな。
それでもこうやって自由に電話出来る関係になっただけでも良いと思わないとな。
そう思いながら電話で話してた時だった。
「海堂、明日から休みに入る」
「やっと休みか、お疲れさん!」
俺からその話題には敢えて触れずに、芳村が帰省しやすいように労う言葉を掛けた。
これまで芳村から1度もその話は触れてこなかった事で、なんとなく俺は悟ってたし期待してだめだった時に落胆してしまうと……そこで逆に芳村が帰省して、こっちに戻って来たら1~2日泊まりに行くつもりで居た。
芳村が学校に行って日中居なくても構わない…今度は1歩も引かずに強引にするつもりだ。
「それでな。海堂が言ってた31~1/2まで私の所に来るか?それとも、どこか行きたい所ある?」
半分諦めてた事もあり、予想外の芳村からの話しで頭が回らなかった。
「えっ!……マジ⁉︎」
「はっ! 冗談だったのか?そうか」
俺の言い方が悪かったらしく、芳村は誤解し声のトーンも低い。
ヤベッ!
俺は慌てて誤解を解く為に言い訳した。
「ち、違う! 誤解だって。俺の言い方が悪かった! 聞いてくれ!」
「……何?海堂がそう言うつもりじゃないなら、別に構わないけど⁉︎」
「だから違うって! 今まで電話でもそんな話し全然芳村から言ってこなかったから半分諦めてた‼︎ 芳村も帰省するつもりだったって事もあったし、俺の我儘で突然言った事だったからな。だから……諦めてた分、めちゃくちゃ嬉しくって……信じられなかったんだ‼︎ マジで嬉しいって言う意味‼︎」
必死に誤解を解く俺の口調に、芳村も解ってくれたようだ。
「そうか、悪かった。私もはっきりしたら話そうと思ってたから。変に期待させてだめだったら、海堂ががっかりすると思って言い出さなかった。ごめんな」
芳村が悪い訳じゃないのに。
俺の事を思って言い出さなかったって事だろ?
元々は俺の我儘なのにな。
「芳村が謝る事はないよ。元々は、俺が芳村と一緒に過ごしたいって言う我儘からの話しだ。ありがとうな俺の為に都合つけてくれたんだ! 芳村のそう言う気持ちが嬉しい‼︎」
「良いんだよ。私も……海堂と一緒に居たかったしなこう言う事話すの恥ずかしいなぁ~。ま、31~1/2まで宜しくな。来る前には連絡くれよ」
「解った。芳村、ありがと」
「どう致しまして。じゃあ、おやすみ」
「ゆっくり休めよ。じゃあな」
電話を切りベットにバフッとダイブした。
やったぜ~~‼︎
マジ、嬉しい~~‼︎
あれから何日会ってない⁉︎
5日振り⁉︎
芳村が忙しそうだったから、ずっと電話だけで我慢してた。
何度も突然会いに行こうと思ったが…俺は休みだから良いが芳村は仕事だと思うと……無理させるのもと思い自制してた。
楽しみだ~~♪
恥ずかしそうに、芳村も俺と一緒に居たいって言ってくれた……これまで芳村がそんな事言った事が無かった。
だから、余計に恋人同士になったと実感した。
あ~~、やっと俺の者になったんだ‼︎
ふかふかの枕にニヤける顔を埋めた。
その日は、何だか興奮してなかなか寝付けなかった。
あと1日待てば会える‼︎
明日が長く感じそうだ!
結局、朝方に寝て起きた時には昼近くだった。
その日は何をやってても時間が経つのが遅く感じた。
「1人で居ると時間ばっか見るな。良し、気晴らしに尊と遊ぶか?」
部屋にずっと居てもしょうがないと、部屋を出て尊を探しに行こうと思って廊下に出ると、庭から尊の声がした。
「ん?」
声のする方に歩き庭を見ると、若い衆2人と尊がしゃぼん玉で遊んでた。
へぇ~、進歩したな。
これで寮に帰っても大丈夫そうだな。
「あっ! 龍臣さん」
若い衆の1人が俺に気がつき声を掛けてきた。
「お疲れ様です」
もう1人も挨拶してきた。
「よっ! 3人でしゃぼん玉遊びか?」
「今、ちょっと時間空いたんで」
「懐かしいですよ。龍臣さんもどうですか?」
舎弟の2人が話すと尊も誘ってきた。
「一緒にやろう。はい」
しゃぼん玉の道具を渡され吹いてみた。
虹色のしゃぼん玉が大小と空に登っていくのを尊が追いかけてた。
「しゃぼん玉なんて何年振りだ。懐かしい~な」
「俺らも尊さんがしゃぼん玉やってるのを見て、懐かしい~と思ったんですよ」
「今のしゃぼん玉の道具って色々あって驚きですよ。それにしゃぼん玉もなかなか割れないんですよ」
「お前ら楽しんでるな~」
尊と一緒に遊んで童心に返ってると思って笑った。
「龍臣さんもやってみれば解りますよ。これ何か連射で凄いですよ」
鉄砲の形をしたしゃぼん玉器具でやってみせると連射で凄い量のしゃぼん玉がたくさん出た。
他にラケットみたいな団扇みたいな形で振ると沢山のしゃぼん玉が出る物や口で吹くタイプと様々あった。
「凄ぇ~な。しゃぼん玉もバカに出来ねぇ~な」
俺達がしゃぼん玉を出すと尊は笑いながら追いかけ割って楽しんでた。
「敏、拓。尊と遊んでくれて、ありがと~な」
俺が礼を言うと照れたような顔をし
「この間、珍しく尊さんから ‘遊んで’ って言われて、少し時間あったんで遊んだ時に凄い喜んでくれたんです。尊さんはいつも1人で遊んでるんで、こっちから話し掛けるのも……と、ずっと思ってた所だったんで俺らも嬉しかったですよ」
「そうか。俺も尊は1人で遊んでるのが好きなんだと思ってたし気にも留めて無かったが…やっぱ寂しかったみたいだ。俺は寮に帰らなきゃならねぇ~から、これからも声を掛けたり、たまに尊と遊んでくれよ。頼むな」
「はい! 解りました」
「姉(あね)さんにも言われてますから」
母さんも心配してたんだろうな。
「そうか、宜しくな」
それから暫くは敏と拓と俺と尊の4人で鉄砲バブルで撃ち合ったりしゃぼん玉潰しをしたりと庭で遊んだ。
敏と拓が仕事に戻ると、俺と尊はまたコンビニにおやつを買いに出掛けた。
尊も口数が多くなり良く話すようになった。
以前より明るくなった気がした。
少しずつ尊も家での居場所を作っていけば良い…焦る事はない。
尊とコンビニに行き帰りに公園に行って遊び、そして夕方に家に帰ると玄関に母さんが居て
「お帰り~~、尊、楽しかったかい?」
「うん! アイス買って公園で食べたんだ。あとね…ブランコや滑り台もした~」
「そうか.そうか。良かったね。手を洗っておいで」
「は~~い」
尊が廊下を走って行く姿を2人で見てた。
「どう言う風の吹き回しか知らないけど……尊に向き合ってくれたのは良かった。あの子もこの頃変わった大人しいと思ってたけど……やはりあんたの子だね。これから尊はどんどん変わっていくと思う……龍臣も大学行く事を決めたし…成長したね。私も歳を取るはずだね~~」
子供と孫の成長をしみじみ噛み締めてる言い方だった
「まだまだ母さんは若いって! 同じ年代のそこら辺の叔母さん連中とは雲泥の差だよ。歳の割には綺麗にしてるって」
「やだよぉ~~この子は! 親を揶揄うんじゃないよ」
満更でもないらしく喜んでる母さんが可愛らく思えた
「俺、31~1/2まで居ないから」
「あっそう。友達と遊び歩くのも良いけど、悪さはするんじゃないよ~」
「解ってるって。じゃあな」
母さんに言ったし……あとは明日が早く来るのを待つしかねぇ~か。
夕飯も食べ風呂も入り、後は寝て明日が来るのを待つばかりで部屋のベットでゴロゴロ…してた。
芳村に電話しよう…か。
いや、明日会うんだし……。
グダグダ…そんな事を考え時間が過ぎる。
「あ~~もう寝ちまおう!」
寝れば明日だ!そう思い布団を頭から被る……が、心が騒ついて寝れない。
時間を見ると22時になろうとしてた。
時計と睨めっこし暫く考え、決めた‼︎
「良し! 」
思い経ったら、俺の行動は早かった。
部屋から外出着に着替え、舎弟である敏の部屋に行った。
「敏~~、車、出してくれよ~~」
「今からですか?」
「そう!」
「……解りました」
断れないように睨みを効かせると、敏は快く(?)引き受けてくれた。
俺は敏の運転する車に乗り芳村のマンションに向かった。
俺の実家からだと2時間位か?
丁度良い‼︎
芳村に会いたさで逸る気持ちを行動に移した。
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