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第97話

朝目覚めると、隣に居るはずの芳村の姿はなかった。 「……夢⁉︎」 寝起きの頭で、昨日芳村を抱いて眠りに就いたのは夢だったのか?と一瞬思ったが、俺の部屋とは違うしベットも違う。 俺はガバッと起きベットから出て寝室を出ようとしてチラッと机の上を見た。 夏休みの時に見た彼女との写真立てが消えてた。 無くなってる⁉︎ 別れた⁉︎ ずっと彼女との事が気になってたが、俺から聞くのは何だか……口に出さずに居た。 そうだよな、クリスマスイブとクリスマス当日と恋人同士が過ごす時間を俺と過ごしたんだし、多少は強引だったが選んだのは芳村だ。 その時に、俺を選んでくれたと自信を持ったが……写真立てが消えた事で別れてくれたと確信を持った。 芳村からはっきりと別れたとは聞いてないが…年末年始を俺と過ごす事も写真立ても……状況が物語ってるし別れを切り出すのも辛かっただろうし…芳村に問いただす事とないな。 これから芳村と過ごすと言う時にわざわざ言う必要もないと思い、俺は嬉しい気持ちのまま早く芳村に会いたさで寝室を出た。 「おはよ。今、起こそうと思ってた」 芳村が朝食の用意をして朝の挨拶をしてきた。 夢じゃない! 今日から芳村と誰にも気兼ねなく過ごせるんだ! 昨日からの気持ちが蘇り、朝を芳村と迎えられた事を実感した。 「パンと目玉焼きだけど良い?座れよ」 俺は座ってる芳村に近付き、背後から抱きしめ耳元で囁き頬にチュッとキスした。 「おはよ。出来ればベットで芳村の顔見たかった」 俺は朝から甘い雰囲気にしたかったが、現実主義の芳村はなかなか甘い雰囲気にはならない。 「海堂の起きるのを待ってたら、昼過ぎちゃうからなほら、座って食べろよ」 芳村の首に回してた俺の腕をポンポン叩き席に着けと言う。 あ~~、朝からは無理か? 俺は甘い雰囲気でイチャイチャ…するのを妄想してただけに少しがっかりした……が、背後から見る芳村の耳が赤い。 照れてるんだな……そう思うと愛しい。 俺は気を取り直し、芳村の前の席に座りパンに嚙りついた。 「今日、どうする?どこか行きたい所ある?」 俺はずっと芳村と過ごしたいと思ってたから、本当はどこにも行かずに部屋でイチャイチャと甘い雰囲気で過ごしたかった…出来れば、そのままセックスに……。 でも、芳村って常識人だからなぁ~。 そう言う行為は夜にするもんだとかベットでするもんだとか言いそうだしな。 取り敢えず、今日は様子見って事で……。  「ん~そうだなぁ~。初詣行かねぇ~?」 「初詣って、まだ年明けてないけど?」 「別に、どうしても年明けて行かなきゃなんねぇ~って事でもねぇ~だろ?1日早いけど、行こうぜ。明日は絶対に混むし今年のお礼しとかないと…」 「そうだな。今年のお礼?あ~そっか~、受験合格の事な」 「それもあるけど…芳村と気持ちが通じ合えたお礼! 今年中にお礼言って来年も宜しく~~ってな」 「…ばかっ。受験のお礼しろ!」 照れて頬を染めてパンを口に放り込んでる。 全く、可愛い~よなぁ~。 「じゃあ、浅草に行って浅草寺でお参りして、仲見世をふらふらする?」 「ん、それで良い。芳村~、年末に見たいTVあるから早めに帰る?」 「あっ! 私も見たいTVあるから、そうしよう。海堂の見たいTVって、もしかして」 「「ガキ○○‼︎」」 同じTV番組を言って顔を見合わせプッ…と笑った。 「え~~、芳村も?何か意外」 「前々から好きでずっと見てる。録画もして暇な時や落ち込んでる時に見ると自然に笑えるから良い。もう年末これ見ないと年末って感じしない」 「俺も録画してる」 芳村と笑いのツボが一緒だったのが嬉しかった。 2人が好きなTV番組を見て笑って過ごす…良いなぁ~♪ それも楽しみだ‼︎ 「じゃあ、早めに出て浅草をふらふらしながら食べ歩きする?帰りにスーパー寄って、蕎麦買って年越し蕎麦食べながらガキ○○見よう。あとは、明日からの食材も買って」 「そうしようぜ。何だか楽しみ~♪」 今日の予定を決め、和やかな朝食を済ませて俺達は出かる事にした。 出掛ける前に、芳村が紺のマフラーを貸してくれた。 「寒そうだからな」 芳村も茶色のチェックのマフラーを首に巻く。 「サンキュ」 俺は芳村にチュッとキスしお礼を言うと、マフラーに顔を埋め頬を染めた。 そんな可愛い~事するなよ~~。 出掛けたくなくなる! 芳村も楽しみにしてると思いその気持ちは封印し、俺達は甘い雰囲気の中で部屋を出た。 電車に揺られ浅草に着いたのは昼前だった。 浅草門前には、既に人がたくさん居て混雑してた。 「混んでるな」 「そうだな。外国人も多いな」 「取り敢えず、先にお参りしようぜ」 仲見世をゆっくり見て歩くのは後にし、浅草寺を目指し歩く。 人混みでぶつかりそうになったり芳村と離れそうになったりと歩き辛い。 「芳村!」 俺は芳村の手を握り人混みを歩く事にした。 「海堂……」 「これなら離れない! この人混みじゃあ解んねぇ~って」 人の目を気にしてる芳村の手を握りズンズン…歩く。 やっと仲見世通りを過ぎ浅草寺に着き、少しマシになった人混みで手を離した。 お参りの前に、常香炉と言う煙を被ってる人が何人も居た。 俺達も他の人に見習って、そこに行き煙を手で仰ぐ。 「海堂は、頭な」 俺の頭に煙を被せる。 「頭って…ひでぇ~な」 クスクスクス…笑って、自分は肩や腰に煙を当ててた 「んじゃ…悪い所はこれで治るって事で。参拝しようか?」 参拝するにも人が待ってる状態で、俺達も順番が来るまで並んで待つ。 やっと俺達の番になり金を入れ参拝した。 手を合わせながら ‘受験も無事合格しました、ありがとうございます。芳村とも思いが通じあえました。来年も芳村と一緒に居られますように……頼みます’ 心の中でお礼と願い事をした。 隣の芳村も手を合わせ何か願い事してるんだろうな。 「良し! 次、行く?」 「おう! 芳村、真剣に手を合わせてたけど、何、願い事したんだ?」 階段を下りながら聞くと、芳村は「言ったら叶わないじゃないか~。教えません!」 「ケチ~~!」 「ケチとかの問題じゃないと思うけど……。子供か!」 芳村のツッコミもあり笑ってしまう。 それから俺達は当初の予定通りに仲見世通りを歩き土産屋を見たり、行列になってる店に並びメンチカツやカレーパン.ジャンボメロンパンあとはたい焼き.揚げまんじゅうと食べては歩きまた並びそして歩く。 メンチカツも肉汁がジャワ~と口の中に広がり美味かったし、カレーパンも外側はカリカリで中はふわふわで濃厚なカレールーがとろ~として美味い。 ジャンボメロンパンは大きさはあるが中はふわふわで外のクッキーはサクサクでバターの香りがするがさっぱりと食べられデカいがペロッと食べられた。 そんな味の感想を言い合い芳村が甘いのも食べたいって言うから、たい焼きと揚げまんじゅうも食べた。 甘いものは苦手だが、あんこが思ったより甘くなく俺でも食べられた。 そして仲見世通りから少し外れて探索したり公園で温かい缶コーヒーを飲んで話したりと結構時間がアッと言う間に過ぎた。 やっぱ、好きな人と一緒に過ごすと時間が早く感じた。

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