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第110話

「気を付けて行けよ。こっち戻ったら電話くれ」 「解った。お前も気を付けて帰れよ」 「戻ってくるよな?」 クスクスクス…… 「戻って来るに決まってるだろ。学校もあるんだから。可笑しな奴だな」 「そうだよな……必ず、戻ったら連絡しろよ」 「はい.はい」 「返事は1回だろ」 クスクスクス…… くっくっくっ…… 駅のアナウンスが流れ、芳村は新幹線に乗った。 まだ、ドアは開いたままで白線の外で俺は芳村に話し掛けた。 「必ず、連絡しろよ」 「解ってる。危ないから」 そしてドアが閉まり新幹線がゆっくり動き出した ドアの窓から芳村は手を振る。 俺もプラットホームから手を振った。 芳村を乗せた新幹線は俺からは見えなくなった。 「行っちまったな」 午後の新幹線に乗る芳村に合わせ部屋を出て、芳村は最寄り駅で分かれるつもりで居たらしい。 「送らなくていい」と言う芳村を言い含めて「絶対に見送る‼︎」と頑固として譲らない俺に諦め2人で東京駅にやって来た。 「もう、改札口で良い」と言うが、勝手に入場券を買い一緒に構内に入って見送った所だ。 良く遠距離の恋人同士が離れ難くホームで抱き合ったりキスしたり手を繋ぎ話してたりしてるのをTVで見たり噂には聞いてたが……今の俺はまさにその状況と心境だった。 この何日間かずっと一緒に居てセックスもし……昨日の夜も「明日から芳村と一緒に居られないんだ。優しくするから、1回で終わるから」と、殆ど懇願に近い感じでセックスもした。 芳村の体も夕方には動けるようになり、何やかんや言いながらも「1回だけな。約束だぞ」と、やはり離れるのが寂しいのか?受け入れてくれた。 俺の気持ちを汲んでくれたのもある。 新幹線が去った方向をいつまでも眺めてた。 楽しかった分、いや想いがやっと通じ晴れて恋人同士になった事で尚更寂しく離れ難かった。 何だか、このまま芳村が帰って来ないような……俺の元に戻らないような……そんなネガティブな気持ちになる。 離れる事が、こんなに不安になるとは…。 いや、芳村も言ってたじゃないか。 学校もある…と。 そうだよな、芳村の仕事場も生活もこっちなんだからな。 何だか、バカな事を考えた。 「早く、帰って来いよ」 今、新幹線で行ったばかりなのに……もう会いたくなり、小さく呟き俺はホームをあとにした。 家に久々に帰り自分の部屋のベットでゴロ寝し、ここ何日間の事を考えるとやはり嬉しさが湧き起こる。 この喜びを誰かに話したくなり、その日の夜に祐一と伊織に電話し明日3人で遊ぶ約束を取り付けた。 「あいつら驚くだろうな」 冬休みに入ってからは連絡もせずに会う機会もなかった祐一と伊織にはクリスマスからの芳村との事は話してなかった。 今も何も言わずに「暇だから、遊ぼうぜ」と誘った。 直接会って話し驚く顔が見たかったのと、あいつらも多分喜んでくれるはずだと思ったからだ。 何かと応援してくれたあいつらには報告するのが筋だろうし……誰かとこの喜びを共有したかったのもある。 明日、楽しみだなぁ~。 そう言えば、芳村は着いた頃か? もう一度スマホを手に取り、時間と電話かLineが来てないか?確認した。 京都には、そろそろ着いた頃だな。 そこからまた電車に乗るかもな。 電話もLineもなかった事に落胆したが、移動で疲れてるだろうしと思う事にした。 「チェッ! Lineぐらいくれよなぁ~」 部屋を出る前にLine交換したが、芳村の頭にはLineの存在は忘れてるんだろう。 大学の事で相談したいと嘘を吐き、やっとゲットした電話番号。 電話でしか連絡してなかったしな。 それ以外の連絡方法は絶対に教えてくれなかった芳村が恋人になるとあっさり教えくれた。 生徒から恋人の立場になったと実感が湧く。 芳村のLineのアイコンはクリスマスに2人で行った水族館でのクラゲがライトアップされ幻想的なアイコンだった。 それを見た時に嬉しさと愛されてると感じ、心が満たされた。 そんな事をさり気なくしてる所がツンデレなんだよなぁ~。 来ないLineのアイコンを見て1人で頬が緩みっぱなしだった。 こんな所にも芳村のツンデレを発見し、芳村が笑顔と照れた顔でアイコンを変えたのかと思うと俺まで笑顔になった。 こんな些細な事でも心が温かくなり幸せを感じた

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