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第112話

「それでは失礼致します」 カラオケの店員が飲み物を置いて出て行ったのを見計らい伊織が早速聞いてきた。 「話って?何?早く教えろよ~」 ここまで来る間もしつこく聞かれたが歩きながら話す事じゃないと、俺は聞かれても頑として答えなかった。 それもあり、早く聞きたくってしょうがないらしい。 「どうせ芳村絡みだろ?あとは……大学関係?」 祐一は冷静に話してくる。 ま、俺の話は大学が決まった今は芳村の事しか無いのは解ってるんだろう。 「早く.早く! なに勿体ぶってんだよ~。早く話せ‼︎」 芳村との進展が気になるのか?ワクワクしてるのが解る。 「ああ、お前達の想像通り芳村の事だ」 「で?」 「進展あったのか?それとも完璧に振られた?」 祐一のヤロー、縁起でもねぇ~こと言うなよ。 ま、今の俺は幸せだからな、許してやろう。 「実は……付き合う事になった‼︎」 「え~~‼︎ マジか~⁉︎ やったな‼︎」 自分の事のように大喜びする伊織。 「良かったな。お前の気持ちが報われたな」 静かに顔には出さないが祐一も喜んでるのが解る 喜び方は対象的だが、2人共ずっと俺の気持ちを知って話を聞いてくれ協力し応援してくれてたから心から喜んでくれてるのが解り、俺も嬉しいのと感謝した。 大学の事もそうだが、ずっと芳村との事も気になって心配してくれてたんだろうな。 俺が ‘付き合う事になった’ と言った時に、喜ぶ笑顔と安堵の顔が見えた。 「で、何でどう言う経緯で付き合う事になったわけ?」 興味津々で聞く伊織に俺は大学受験合格の褒美にクリスマスを一緒に過ごす約束を強引に取り付けた事から正月を一緒に過ごした事までを惚気も含め話した。 「それで?」「で?」と、先を促し煩いが楽しそうな伊織と黙って口を挟まずに話を聞く祐一。 「ま、大まかには、そんな感じで付き合う事になった。これで晴れて恋人同士だ‼︎」 浮かれてる俺に伊織は羨ましそうだが、一緒に浮かれてる感じだった。 「やったな‼︎ 良かった.良かった‼︎ ここまで結構長かったからな。このまま卒業しちまうんじゃねぇ~かと半分思ってた。マジ、良かったな‼︎」 「サンキュ‼︎ 俺は絶対に諦めるつもりは無かったが、芳村は歳上だし常識人だから色々葛藤は有ったと思うけど、最終的には俺の気持ちに応えてくれた。芳村も俺の事が好きだっつー事だ」 「このヤロー! 惚気やがって~~」 俺と伊織のやりとりを黙って聞いてた祐一がやっと口を開いた。 「そうか、良かったな。でも、水を差すようで悪いが芳村には彼女居たよな?別れたのか?」 「別れたに決まってんじゃん。じゃなきゃよ~。クリスマスイブとクリスマス当日の2日間龍臣と一緒に過ごすか~?クリスマスって言ったら恋人同士の時間じゃん。その日を龍臣と過ごすって事は彼女とは別れたんだろ?あの芳村が二股とかそんなの考えられないし、そう言う所きちんとしてそうじゃん」 俺が思って言おうとした事を伊織に先に言われた 誰が聞いてもそう思うよな。 わざわざ直接確かめたわけじゃないが、状況や芳村の性格を知ってる奴ならそう思うはずだ。 芳村は二股掛けるような奴じゃないのは、伊織も祐一も解ってるはず。 「その事もあるが、夏休みには有った机の上に彼女とのツーショットの写真立ても無くなってたし芳村のLineのアイコンも俺とのデートした時の水族館のクラゲに変わってたしな」 人間観察が殆ど趣味の祐一には心配だったようだが、俺と伊織に状況説明されある意味納得したらしい。 「ま、芳村ならそんな事はしねぇ~と思うけどなちょっと気になった」 「祐一は心配症だね~」 伊織に揶揄われてるが、無視し真剣な面持ちで話す。 「心配ついでに話すけど。お互い気持ちが好きで付き合うのは構わないが、龍臣、あまり浮かれるなよ。嬉しくって浮かれる気持ちも解るが、学校始まったら芳村は教師で俺達は生徒だ。芳村は大人だし弁(わきま)えてるだろうが、龍臣の方が浮かれてバレるような行動や言動したら、芳村の教師としての立場がヤバい。そこん所、ちゃんと出来るのか?」 「……そうだな。気を付ける」 「祐一、龍臣だって解ってるって!」 正直言って、浮かれて学校始まってからの事は考えて無かった。 ただ、早く芳村に会いたい!と、そればかりだった そうだよなぁ~。 祐一の言う通りだ! バレたら芳村の教師としての立場がヤバくなる、俺が気を付けねぇ~と! 冷静に状況判断する祐一に言われ、少し冷静に考えられるようになった。 「俺も伊織と同じ位に、龍臣と芳村の事は嬉しいんだ! それは解ってくれよ。嫌な役回りだが、誰かが冷静なって言わないと…と思ってな。これも芳村と龍臣がずっと付き合っていく為だと思ってくれ。ま、卒業は間近だし大丈夫だとは思うけどな」 「ありがとうな。言い難い事もちゃんと言ってくれて、俺も少し頭が冷えて冷静になれた」 「そうか、龍臣なら解ってくれると思った。俺だって、この単純バカみたいに何も考えずに龍臣と一緒に単純に喜びたかったけどな」 「はあ⁉︎ 誰が単純バカ⁉︎ 俺は成績は良いです! それに単純じゃなく素直だって事だ‼︎ 誰かさんみたいに捻くれた性格してねぇ~し斜めから見たりしせません‼︎ ふん‼︎」 伊織が拗ねて言い返すと、祐一も偶に逆襲する時があるが、今がそうらしい。 「誰が捻くれた性格なんだ⁉︎ 冷静沈着で頭脳明晰って良く言われるがな」 「冷静沈着って、おやじじゃね~んだからよ~。俺達はまだ10代だぜ。面白おかしく、そして熱く青春する時期‼︎」 「はあ~~青春って……今時そんな事言う奴居る?」 「ここに居る‼︎」 呆れる祐一と胸を張る伊織。 クールに伊織を揶揄ってる祐一と、それを解って反撃する伊織は決して喧嘩にはならない。 俺と伊織なら絶対に喧嘩になる。 似た者同士だからな。 俺の話しを聞いた時も伊織は素直に喜び、俺達と対象的な祐一は喜びながらも、浮かれてる俺達を見て冷静になり言ってくれたんだ。 まだ言い合いをしてるそんな2人に改めて感謝した。 「祐一、伊織。ありがと。お前達が居てくれて良かった」 照れ臭いが、感謝の気持ちを口にした。 こう言う時でも無いと言えないと思ったからだ。 突然言い出した俺に2人は言い合いを止め一瞬固まり、そして直ぐに2人共照れた顔をした。 「照れる」 そのまま直球で感じたまま話す祐一はこう言う時は素直だ。 「今頃解ったのか⁉︎ 遅~~!」 伊織はこう言う時は素直じゃないんだよなぁ~。 「俺、芳村とずっと付き合っていきたいし……芳村しか要らねぇ~。だから、卒業までは学校ではイチ生徒に徹する。祐一が言ってた通り、その方がお互いの為だしな。卒業したら堂々と出来るしそれまでの我慢だと思って」 「そうか。良いと思う」 「ま、もう大丈夫だと思うけど、何かあったら相談しろよ」 「ん…サンキュ」 「良~~し‼︎ 折角カラオケ来たんだから、何か幸せな歌でも3人で歌おうぜ!」 「……そうだな」 珍しく祐一も歌うようだ。 雰囲気を明るくしようと2人なりに考えてくれてると感じた。 滅多に行かないカラオケで、お互い下手なりに歌い踊りまくった。 浮かれてた俺は祐一のお陰で少し冷静になれたが……実際、学校で芳村と会ったら嬉しさのあまり顔がニヤけてしまうんだろうなとも思った。

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