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第123話
祐一と伊織のお陰で何とか俺の気持ちも浮上したが……芳村には何も言えずに居た。
もう芳村の授業もさぼる事もせずに、逆に、残り少ない学校生活での芳村の姿を目に焼き付けておこうと思った。
あと1週間もすれば自由登校になり、卒業式練習まで約1カ月程会う事もない。
原因が解らず、どうする事も出来ずに1日.1日と時間は過ぎていく。
そんな俺の事を側で見て居た祐一と伊織がそれぞれ単体で行動を起こしてた事は知らなかった。
もう直ぐ会えなくなるんだな。
1日を終え教務室で物想いに耽ってた。
あの日から、海堂は授業もさぼる事もなくきちんと出てくれた。
それを嬉しく思いながらも顔にも態度にも出さずに淡々と授業をする。
あのソファで昼休みに良く寝てたな。
編入生で良い噂も無く見かけが背も高くがっちりし黙ってると近寄り難い雰囲気を醸し出してた。
その時は1年の担任だった事もあり、校舎も違い殆ど会う事もなく数回見かけただけだった。
噂の主…か⁉︎
ただそう思い、自分には関わる事が無いだろうと思ってたが…まさか次の年に担任になるとは…な
不思議な縁だ。
体育祭や文化祭と楽しかった。
初めはどうなるかと思ったが、体育祭を期に団結力が出て楽しいクラスになった。
思い出に浸り、これまでの事を振り返って居ると
ガラガラガラ……
「芳村、居る?」
「……成宮? どうした?」
ノックもせずに勝手に入ってきた……一瞬、海堂だと思った。
海堂が来るわけが無い。
あれ程傷つけて…もう、私の事は忘れた方が良い
こんな時でも海堂を気にしてしまう。
「ああ、ちょっと話しても良い?」
「……良いよ。珍しいな、ここに成宮が来るなんて」
ソファに勝手座り、成宮は私をジッと見た。
「芳村さぁ、何で龍臣に無かった事にしてくれって言ったの?何か原因があるんだろ?それって何?」
たぶん海堂の事で来たんだろうと思ってたが、成宮の性格なのか?誤魔化す事もせずに直球で話してきた。
こう言う所は海堂とちょっと似てる。
「……それは……結婚しようかと……海堂にも話した」
「ふ~ん。結婚相手って、彼女?」
「………成宮には関係ない」
成宮と桐生には私と海堂の事は知ってると思ってた……海堂が話すとしたら成宮と桐生しか居ないからな。
「へえ~。彼女って直ぐに答えられないんだ。やはりな。ついでに彼女とは上手くいってるの?龍臣と2股掛けてたんだって?」
意地悪な質問をしてくる。
「………成宮に話す必要は無い」
質問の返事にはなって無いが、これが精一杯だ。
「そう。俺には話せなくっても、関係のある龍臣には同じ質問されたら正直に話せるんだ?」
「……………」
正直者の芳村は嘘はつけないって事か。
「やはり答えられないんだ。そうだよな、彼女とは別れたんだろ?結婚相手なんか居ないのに、何で結婚しようと思ってるって言ったんだ!」
「………成宮の憶測だ」
「どうせ、何を聞いても返事しないんだろ?だったら、俺が勝手に話す! 龍臣は芳村に初めて会った時から何かを感じて一目惚れしてた。俺は芳村がどうこうじゃなく教師なんて面倒だろうと思ってたし、それに龍臣も一目惚れって言ってるが、直ぐに覚めるだろうとも思ってた。でも、龍臣は芳村の事をどんどん好きになって本気になってった。芳村の事で悩んで喜んで…そして楽しそうに話すんだよ、あの龍臣がさ。俺と龍臣はどっか似てると思ってたから、恋愛面でもそうだと思ってた。俺は本気の恋愛なんて面倒だし割り切った付き合いが1番楽だと思ってるし、大体、俺は永遠の愛なんてあるわけ無いし人間不信な所があるから人はいつか裏切るものだと思ってる。龍臣も実家の事でずっと人を信用しない所があって、そこも俺と似てて…だから、こいつも適当な恋愛して本気な奴なんか出来ないんだろうなって、ずっと心の中で思ってた。それでも俺は寂しいし人恋しくなるから恋人は作っては別れるの繰り返しだ。別に、それで構わないと思ってる。龍臣も芳村と出会う前までは、本気の相手は作らず適当に楽しく遊ぶ相手と割り切ってた。でも、その龍臣が芳村の事を嬉しそうに話したり惚気たりしてさ、マジで恋愛してるのを側で見て、面倒くせぇ~と思いつつ…そんな本気の相手と出会えた事.見つけた事が羨ましくもあった。俺には一生そんな相手は現れないと思ってるからな」
普段の成宮からは想像つかない程の冷めた感情は何をそうさせてるのか?
私は成宮の何を見てたか?
そう思うと同様に、成宮に必ず良い人が現れる事を願った。
そして海堂に対する友達思いな所にも感謝した。
「余計な事を言った。けどな、龍臣は芳村を本気で好きな事だけは解って欲しい‼︎ 何が原因で芳村が龍臣を遠ざけてるのか?解らないが、龍臣は芳村の苦悩事受け止める度量のある奴だ‼︎ 必ず、芳村を守る‼︎ 何もかも龍臣に話して素直になれよ。俺が言いたいのはそれだけ」
そう言って立ち上がり、教務室を出て行った姿を潤む目で見送った。
「成宮、ありがと。海堂の友達でずっと居てくれ」
出て行ったドアに向けて独り言を呟いた。
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