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第124話
放課後に、いつものように教務室に居るとドアをノックされた。
コン.コンッ!
「入って良いぞ」
ガラガラガラ……
そこに現れたのは桐生だった。
「今日は桐生…か」
私の呟きが聞こえたらしい。
「今日はって?」
ソファには行かずに、私が居る机の前に立つ桐生と椅子に座ったままの私が対峙した。
「ああ……昨日の放課後に、成宮がここに来た」
一瞬驚いた顔をしたが、珍しく桐生が笑顔を見せた。
「あいつ……何やかんや言って1番心配してんじゃん。俺がここに来たのも伊織がここに来たのも自分の意思で来たんだ。俺は伊織が来てた事は知らなかったし、もちろん龍臣もな。それに俺達は龍臣に言われて来たわけじゃない、そこんところ誤解するなよ。そうか、あいつ……素直じゃないんだからな」
あの桐生の驚いた顔で知らなかったと解る。
昨日の成宮といい今日の桐生といい…本当に良い友達を持ったな。
「それで?」
ここに来た用事は何か解ってるが…。
「ああ、伊織が昨日来たなら大体は話してるんだろうからな。芳村って、龍臣の事はどう考えてんの?」
「…………」
桐生も答えられない質問をする。
素直に答えられたら……でも、そうもいかない。
「答えられない…か。でも、嫌いになったとも言ってないよな。芳村、何を悩んでる?龍臣の事だろ?」
「…………」
「そうか、龍臣の事か。前にさ、龍臣と伊織が授業さぼった罰にグランド走らせた時あったじゃんその時に、殆ど初めてって言っていい位に芳村と話したよな」
急に、何ヶ月も前の事を話し始めた桐生だった。
何を話すのか興味深く黙って聞く事にした。
「あの時さ、芳村言ったよな。俺が居るから龍臣も伊織も上手くいってるって。俺さぁ、そう言われた時凄く嬉しかった。芳村って、良く人の本質を見てる奴だと思った。そんでその時には龍臣が芳村に惚れてる事知ってた。芳村を好きになった龍臣も見る目があると思った」
そんな風に、私を見てくれてたのか?
私の方が嬉しかった。
「伊織と龍臣って似てんじゃん。熱くなるのも、ちょっと強引な所も……だから、すっげぇ~仲良いか直ぐに喧嘩するかだ。人に対しても家庭環境の所為なのか.人間不信みたいな所も似てる。でも恋愛に関しては似てるようで違う。本人達は解ってないけどな。伊織はだめだ! 決して本気にならない癖に寂しいからって付き合ってさ、割り切った付き合いだと言いながら優しくする。で、相手が本気になったりすると逃げる。恋愛する相手と向き合う事から逃げてるんだ。本気になるのが怖いんだろうな。その癖寂しがり屋だから、また付き合うの繰り返しで、始末が悪い。伊織が逃げずに追う程に本気の相手が現れる事はないと思う。でも、龍臣は違う。確かに、相手には本気になる事はないし不特定多数を相手にするのは2人共似てるが、伊織は寂しいからって無意識に無駄に思わせ振りな態度を取る、それが誤解を招くが本人には自覚がないから始末が悪い。その点、龍臣は遊びと始めに伝えそれでも良いならって相手にも納得させ、決して思わせ振りな態度は取らない。そして自分からは誘う事はしなかった、だから相手も割り切れる。俺には、龍臣の方が相手に真摯に向き合ってると思ってる。そう言う優しさもあるんだって。だから、龍臣から好きになる奴ってどんな奴なのか?って思ってた。そして芳村に一目惚れしたって聞いた時…こいつが惚れた相手なら大丈夫だろうって、なぜか確信があった。そんであの時に龍臣の好きになった奴が芳村で良かったって思った。芳村なら、龍臣の本質を見てやれると思ったからな」
「…桐生こそ……良く見てる」
「俺はあいつらと違って、人間不信でも何でもねーし。逆に、人間って面白いって思ってる。顔で笑っても心の中でドロドロ…した物を持ってたりそして逆もな。俺は人間観察するのが好きなだけ芳村は色んな生徒を見てきて、そして龍臣の本質を見抜いたんだろ?あいつが優しい奴だって」
見かけに怯(ひる)まずに、色々と噂にも惑わされる事なく本人とちゃんと向き合い話すと、海堂が優しい事が解る。
海堂自身も気づいて無いのかも知れないが、自分の懐に入ってきた者には信頼し面倒見も良く優しい。
それは桐生や成宮への接し方で凄く解る。
私は最後の桐生の質問には黙って頭を縦に振った
「そうか。芳村も言われなくても解ってるんだな最後に、これだけは言っておく。龍臣が冬休みに俺達に ‘芳村と付き合う事になった’って報告した時の龍臣の笑った顔がめちゃくちゃ嬉しそうで、芳村にも見せてやりたかった。これまで龍臣の側に居て、あんな無邪気に幸せそうな顔を見たの初めてだった。その位、芳村の事が好きなんだって解る笑顔だった。龍臣の気持ちは本気な事だけは覚えて置いて欲しい」
そんなに……あの時は…私も同じ気持ちだった。
でも……海堂の将来を考えて……。
何も言わない私を見て、それでも桐生は人間観察が好きだって言うからには、何かを感じとってるんだろう。
成宮は真剣な顔で怒りも多少はあったように見えたが、桐生は最後には少し笑顔を見せた。
「芳村を信じてる。龍臣が惚れた相手だからな。話しはそれだけ。じゃあな」
そう言ってドアに向かい教務室を出て行った。
また目の前が馴染んで見える。
……やはり、あの2人の側に桐生が居て良かった
成宮も桐生も…海堂を心配して。
2人が話すように何もかも海堂に打ち明けられたら………でも…どうにもならない事……海堂を困らせるだけだ。
私の気持ちも……揺らいで居た。
昨日は成宮、今日は桐生………明日は…海堂?
そんな風に思った。
ドアを気にして……私は海堂が来るのを心のどこかで期待して…無意識に待ってた。
でも、次の日には教務室に海堂は姿を現す事はなかった。
「来なかった…な」
明日で……1月も終わる。
2月からは3年生は自由登校になる。
一般受験する生徒は図書室や教室を使い自主勉強しに来る生徒も居るが、それ以外の殆どの生徒は卒業練習まで1ヶ月程は登校する事はない。
明日が最後…か。
自分からは行動起こさず……海堂を待ってる。
そして半日で終わった次の日。
ぞろぞろ帰る生徒達を教務室の窓から眺めてた。
数時間経っても……海堂は現れ無かった。
「海堂……幸せになって欲しい」
これで良かったんだ……これで…。
自分の気持ちより……海堂の将来の為。
それが一番だ。
涙を袖で拭き、頭を切り替えるように書類を見た
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