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第125話
夕方になり、あと少しで一応の退社時間になる。
「今日は、早く帰ろう」
半日授業と言っても、殆ど今日は授業が無かった
学年集会とクラスでの自由登校期間の注意事項を話し、そして大掃除をして終了だった。
疲れは殆ど感じてはいない……。
でも、心のどこかで海堂が帰る前に、ここに来るんじゃないか?と思ってた……待ってたんだ。
それが……来なかった。
私を好きだと言う海堂だから…明日から暫く学校もなく会えなくなる前に話しをしに来るだろうと思ってた……口では、これで良かった.海堂も諦めたんだと呟くが、心の中は……自分勝手な自惚(うぬぼ)れと寂しさで落ち込んでた。
自分でそう仕向けた癖に……これで……思い通りになった……はず。
そう思いながら……海堂なら、自分の想いを突き通すだろうと……あの情熱と激しい気性で……
強引な行動を起こすと…思ってた…いや、少し期待してた……私を求めて…諦めてない…と、自惚れてた……密かに、期待しながも応えられない……それならこのまま終わっても…。
自分では何もせず、そんな事ばかり頭の中をぐるぐる考えが回ってた
結局、海堂の事が頭から離れない……って事…か
落胆を隠せず ‘ここに居たら、いつまでも期待してしまう’ と思い、机の上を片付け始めてた。
ガラガラガラ……
突然、教務室のドアが開いた。
まさか!
……そこには……海堂が…立ってた。
「あ~良かった。まだ芳村が居てくれて…はぁはぁ」
走って来たのか?
少し息が弾んでる。
「海堂……帰ったんじゃ…」
「半日だから、伊織達と飯食べに行ってた。どうせ、芳村はまだ仕事だろうと思って、時間潰してた。でも、思ったよりあいつらと話が弾んで遅くなっちまった。芳村、そろそろ帰ると思って焦った~」
話しながら、私の机の前まで歩いて来る。
顔には出さなかったが……。
来てくれた‼︎……嬉しかった。
まだ、好きで居てくれる。
「……何か…用があったのか?」
気持ちとは裏腹に素っ気なく話した。
「そう! 大事な用があるんだ。嘘吐きの芳村に」
嘘吐き?……なぜ?
「………どう言う意味?」
どう言う事か半分は解ってた……でも、解らない振りをした。
「芳村の嘘に、すっかり騙された。俺、素直だからな。真に受けて腹が立って自暴自棄になってさ自分でもバカだった。伊織と祐一と話して、やっと冷静になった。そんで色々考えた……で、芳村が嘘ついてるって結論出した」
真っ直ぐに、私の目を見て話す海堂は自信と確信があるようだ。
嘘や誤魔化しは聞かないと言う雰囲気だ。
「……嘘って」
弱々しい声になった、これでは嘘吐いてたって言ってるようなものだった。
「芳村が1番解ってんじゃん?ま、良いや。俺から話す。1つ…結婚の話。2つ…2股はかけてない事。3つ…俺をまだ好きだって事」
「…………」
「全部当たってるから、反論できないんだろ?俺も勝手に思い込んでた節もあったけど。どうしてそんな嘘吐くような事言ったんだ?何か、原因があるんだろ?俺の為?それとも男同士の恋愛に不安感じてる?芳村に嘘吐かせる原因が何かは、俺には言えない?俺が歳下で頼りないから?そんなに俺って頼りない⁉︎ 一緒に考える事もさせてくれないんだ! 教えくれよ」
「………言えない。言った所で、どうにもならない」
「言って見なきゃ解んねーだろーが!」
「…………」
「また黙り?俺を好きな癖に! 俺に芳村を諦めさせようとしてるけどさ、芳村こそ俺の事忘れられんの?」
「…………」
海堂はしかめっ面と困った顔が入り混じった何とも言えない顔をしてた。
「それも黙り?原因は言えない.俺を好きな癖に忘れられない癖に、それも素直に言えない……芳村がさぁ~、そんなんじゃ俺からは何もしてやれないじゃん。卒業を機に……もう、会う事も無くなるから忘れる?そうするんだ?」
「…………」
「俺はこんなに好きで…忘れられない! でも……芳村がどうしても、この先俺と付き合っていく事が出来ないって言うなら……その原因を教えてくれないなら……俺も……考える。……明日から自由登校だろ?1カ月考える時間をやる! その間、俺は連絡しない‼︎ 俺もきちんと考えるよ。最後かもしんねぇ~から、今の気持ち伝えておく」
俺の話を黙って聞いてた芳村の目が不安そうに俺を見た。
その目は ‘どこにも行かないで、離れないで’ そして ‘好きなのに' と、俺にはそう感じた。
頑固で素直じゃない本人とは違って、目は素直に物語ってる。
「……最後?」
「ああ、芳村の考えが変わらない限り、俺はどうも出来ねーからな。この1か月の間に、良く考えて話すつもりになったら連絡くれ、待ってる。卒業式までに連絡無かった時には……それが芳村の返事だと思う事にする。これが2人で会う最後かも知れねーから、俺の気持ちを話しておく。芳村…初めて会った時から好きになった。一目惚れって言ったよな?芳村の事を知れば知る程好きになって、今まで感じた事がない感情に戸惑ったり悩んだりもした。それこそ芳村の事を考えて眠れない夜もあった。でも、好きな奴の事を考えてる時が1番楽しかった。そんで俺の想いが通じた時には、天にも昇る思いで幸せで浮かれてた。そんな幸せな気持ちを与えてくれた芳村に感謝してる今、何に悩んでるのか知らねーけど、芳村は色々考え過ぎなんだよ。俺を好きかどうかの気持ちだけで良いじゃねーか?その先の事は2人で解決していけば良い! 俺は今だけじゃなく、ずっと先まで芳村と一緒に居るつもりだ。この先には沢山の困難や苦悩が待ち構えてるかもしんねぇーのに、まだ俺達始まったばっかなのに、芳村が悩んでる原因を言わないこの今の状況では、この先2人でやっていくのは……無理かも知れねーとも思ってる。特に、俺の環境は特殊だしな」
俺はこの1週間程色々悩み最後の賭けに出た。
こんだけ言ってもだめなのか?
「……海堂」
「俺の気持ちは変わらない。好きだ! 好きで好きで芳村が俺の者になるなら、どんな犠牲を払っても良いと思ってる。もし、芳村が俺の実家の事で悩んでるなら……俺は家を出て縁を切っても良い! その位の覚悟で言ってる。芳村が居れば、俺はそれだけで良いんだ! 若いからとか今だけの感情だけとか言うなよ?俺も散々悩んだ結論だ。そんなに悩む芳村を離してやるのも愛なのかも?と、柄にもなく考えたりしたが……結局、行き着く所は俺のこの先の人生には芳村が必要って事に辿り着く。好きだ‼︎」
「海堂……親と縁を切るなんて言うなよ。それだけは言うな。そう言う事じゃないんだ。……考えさせて欲しい」
泣きそうな目をして…芳村を追い詰めてると思った。
「俺の気持ちは話した。あとは、芳村が良く考えろ‼︎ 卒業式までに連絡なければ……。芳村、自分1人で悩むな。俺が居る‼︎」
俯く芳村の頭を俺は手を伸ばし撫でた。
「そんな芳村は見たくない、俺が好きな芳村はしっかり者で誰にでも公平.平等に接して、自分の意見をはっきり言う凛とした奴だ。そんな芳村が好きなんだから…な」
そうさせてるのは俺なんだろう…何を悩んでる?1人で悩むな!
そして頭を撫でてた手を離し、俺はそのまま教務室を出た。
言いたい事は言ったような…でも、言い足りないような……これで芳村の心に響いてくれれば…。
卒業式まで、わざと芳村に考える時間を与えた。
その間、俺は連絡しない!
芳村が俺の事を考え、そして俺を恋しくなるまで待つ!
今、芳村を悩ませてる事より、俺自身を受け止めて欲しい。
そして……‘海堂がやはり好きだ!’と、その口から聞きたい‼︎
俺にとって人生の賭けだった。
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