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第128話
ー卒業式の日ー
最後の朝のHRに向かう。
ドキドキ…しながら教室に向かい歩き、ガヤガヤ…してる教室のドアの前で一呼吸し、教室のドアを開けた。
「はい、騒ぐな。自分の席に戻れ!」
友達同士で話してた生徒は、ガタガタ…と自席に座り、静かになった教室の中をぐるっと見回した
……海堂。
来てくれた。
良かった!
最後の日に姿を見れた事に内心嬉しかったが、生徒達の手前、教師の顔は崩さなかった。
海堂は真っ直ぐに私を見てた……一瞬だけ目があったが……私の方が先に目を逸らした。
そして装いを正し教師と言う立場で話し始めた。
「さて、今日は卒業式だ。泣いても笑っても最後の高校生活の日だ。最後ぐらいは、きちんとしろよ……皆んな揃って、卒業できる事を嬉しく思うま、卒業前に湿っぽい話しは無しにする。最後にクラスで話すからな。じゃあ、堂々とした態度で卒業しよう!」
『はい!』
良いクラスだった。
「じゃあ、時間だ。体育館に行くぞ」
ゾロゾロ……出て行く生徒達の中に海堂も居た。
私は最後に教室を出て、生徒達と体育館に向かった。
体育館入口の前で待機し1組から順番に入場し、私達のクラスの番になった。
担任として最初に入所し一礼し、その後を生徒達が同じく一礼し入場する。
そして生徒達は用意された席に立ち全員が揃った所で座り、私は教師席に座った。
式典は進み、生徒1人1人の名前を心を込めて呼ぶ
1人1人に思い出があり…そして……。
「海堂龍臣」
「はい!」
名前を呼ぶ事も最後かと思うと、尚更心を込めて呼んだ。
そして式典は滞りなく終わり、2時間弱の卒業式は生徒達が退場し終わった。
堂々とした生徒達の姿に、大人になったな。
そんな思いが広がった。
そして最後のSHRに向かう。
これから別々の世界に進む子供達に最後の言葉を掛ける。
私の気持ちを込めて……。
ガラガラガラ……。
騒つく生徒達がピタッと静まり、教卓に居る私を見た。
「卒業おめでとう。堂々とした態度で凄く良かった。今日で、高校生活は最後だが、3月31日までは本校の生徒だと言う事は忘れないように。ここに書いたが、この先色々あると思う。人生には良い時も悪い時もある。そんな時には、このクラスの事を思い出して欲しい。最初はバラバラだったクラスが喧嘩したり笑ったりして体育祭や文化祭と行事を重ねる事に団結力を増し協力し合う良いクラスになった。もし、自分1人で解決出来ない事が出来たら、抱え込まず悩みを誰かに打ち明けて欲しい。自分1人じゃない、仲間が居る事を忘れないで欲しい。生きて居れば色々ある。それは全て実になり花になる事を信じて、悪い事の後には必ず良い事が待ってるとそう思って生きて欲しい。この先、皆んなの人生は夢と希望がたくさんある。それを掴むかどうかは自分次第だ。色んな人と出会い吸収し、そして自分の人生を大切にして欲しい。ちょっと説教臭くなったが、私からの卒業の花向けだと思って、これから歩んでいって欲しい。以上だ。この後、放送なるまで待機し忘れ物ないか確認して、放送なったら1組から順番に玄関に向かうように。私は玄関の外で他の先生達と待ってるからな」
『はい』
神妙な面持ちで聞いてた生徒達。
そして皆んなの顔を見て教卓を降りようとした時に、誰かが声を掛けて来た。
「芳村、最後に写メ撮って良い?」
「あまり時間無いが……ま、良いだろう」
1人と写メを撮ると皆んな並び、私を囲み何人かのグループでも撮った。
それを機に、生徒達同士で写メを撮り合う。
ガヤガヤ…する中で、成宮と桐生も何も言わずに笑顔で私と写メを撮った。
そして……海堂は……自分の席で他の生徒に写メを撮られてた。
海堂が私と写メを撮る事は…なかった。
ズキッ!
もう…終わりなんだな。
そう思うと……胸が締め付けられる。
「じゃあ、私は行くな。放送なったら廊下に出て並び玄関に向かうように」
最後にもう一度念を押し、今度こそ教室を出て、玄関口に向かう。
海堂の態度に胸が痛かった。
まだ泣くわけにはいかない。
最後に教師としての役割がまだ残ってる。
玄関に向かう途中で校長先生に会った。
そのまま校長先生と玄関口に向かう。
「芳村先生、ありがとございます。担任をお願いしておいて言うのも何ですが最初はどうかと思いましたが、若い芳村先生なら生徒の気持ちも解り必ず向き合ってくれると信じてました。ベテランの先生に担任をお願いしようか?とも思ったんですが、やはり偏見とか憶測で判断されるのもと思い芳村先生ならそんな事もないだろうと申し訳無かったが担任をお願いしました。やはり芳村先生にお願いして良かった。特に問題も起こる事もなく逆に良いクラスになりましたね」
校長先生は海堂の事を話してるんだと思った。
そうか、校長先生も心配してたんだ。
「ありがとうございます。そう言って貰えると嬉しいです。今度は、ゆっくりさせて貰えますかね?」
担任は持ちたくないと暗に遠回しに話した。
校長先生は笑って「考慮しておきましょう」と言ったが……。
校長先生と私が最後だったらしく、他の先生方は揃って居た。
玄関の外で卒業生を見送るのが、最後の伝統行事だった。
放送がなり1組から順番に教師と生徒が握手し労いの言葉と感謝の言葉が飛び交う。
私も教科担当してたクラスもあり1人1人に声を掛け握手した。
校庭では他クラスの友達と話したり写メを撮る風景が見えた。
高校最後の日を皆んな離れ難く名残惜しいようだ
私のクラスの生徒も玄関口に現れた。
これで最後かと思うと涙が出そうになるが、笑って送り出したいと無理に笑って1人1人に声を掛け握手した。
そして海堂が私の前に……。
「芳村、ありがと。芳村の事は忘れない」
「……こちらこそ、ありがと」
他の教師やまだ背後に居る生徒達の手前短い挨拶だった。
何て事はない教師と生徒との最後の会話……ギュッとまた胸が締め付けられた。
これで本当に……最後なんだ。
そんな気持ちのまま最後のクラスの最後の生徒を見送り校庭を眺めた。
まだ生徒達は別れを惜しんで話し写メを撮り合ってる。
何百人居る生徒の中で、海堂と成宮の背が高い事もあり直ぐに解った。
海堂.成宮.桐生とで写メを笑って撮り合う光景が見えた。
そして成宮が他クラスの生徒に呼ばれ写メを撮り海堂の所にも他クラスの生徒が近寄り腕を組んで写メを撮ってた。
その後にも何人か海堂の所に……海堂の友達とは思えない男にしては可愛い系の子達が群がり順番に親しそうに写メを撮る光景に胸が痛み…見てられずに他の教師と一緒に校舎に戻った。
他の教師は職員室に向かうが、私は教務室に向かった。
1人になりたかった。
あの子達は………海堂と体の関係があった子達なんだろう…か⁉︎
最後だからか…思い出に写メを…もしかして……最後じゃないかも……これから先もそう言う付き合いを……。
教務室に入り、窓際に立ち校庭を見た。
まだ生徒達は別れを惜しんでる。
そして成宮の周りにも桐生の周りにも……海堂の周りにも…人が群がってた。
強面だとか近寄り難いとか怖がれてた割には……人気あるじゃないか。
腕を組んだり、背の高い海堂が腰を屈み顔を寄せ写メを撮られてる光景に涙が出た。
これで最後か……そう思うと、涙が後から後から溢れ出て頬を伝う。
誰も居ない教務室では涙を拭く事も忘れ、黙って海堂の姿を最後だと思い目に焼き付けておこうと見て居た。
涙でぼやけて良く見えず涙を拭き、また涙が頬を伝う。
そして名残惜しんでた生徒達も徐々に校門に向かう。
海堂と成宮と桐生の姿もその中にあった。
帰るのか‼︎
もう、会う事もなくなる‼︎
行かないで欲しい‼︎
そう心の中で叫び校門に向かう海堂の後ろ姿を見つめた。
遠くなった海堂の姿は小さくなり最後に振り返った気がしたが……私の気のせいかも知れない。
そして、そのまま校門を3人で出て行った。
……行ってしまった。
私は暫く呆然と涙を流し、校門に流れてく生徒達を見てた。
そして生徒の姿が少なくなり、窓際からソファに移り顔を覆い泣いた。
「うぅ…海堂…海堂……好きなのに……好きなのに…うう…うっく…うう」
‘芳村、ありがと。芳村の事は忘れない’
最後の挨拶の時に言った言葉が全てなんだろう。
あの時……それが別れの言葉だと悟り……胸が痛んだ、いや傷ついた。
私にはどうにもならない事だから、この1カ月何度も考え結論出せず今日まできてしまった。
結論出せない私はどんなに海堂が好きでも何も言えない。
そして海堂は痺れを切らして、自分で結論を出したんだ。
それがあの言葉だ‼︎
「海堂…海堂……忘れる事なんか出来ないよ……好き…だから……うぅ…うう」
今だけ泣こう‼︎
そして無理に海堂を忘れる事はしない。
時が忘れさせてくれるまで……それまで海堂の幸せを祈ろう。
私にできる事はそれだけだから……。
好きだ…よ……海堂。
海堂との楽しかった事が頭に浮かび涙が後から後から溢れ出た。
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