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第129話

暫くすると ガラガラガラ…… 顔を覆い泣いてた私は咄嗟に開くドアの音に反応し顔を向けた。 「芳村」 校門を出て帰ったはずじゃ……。 その後ろ姿を、そこの窓際から確かに見た…はずなのに……どうして…。 もう会えないと思ってた海堂の姿を見て……また涙が頬を伝う。 「どうし…て?」 海堂は私の座ってるソファまで来て隣に座り、私の顔を見て一瞬辛そうな顔をし……それから笑顔を見せ、私の涙を親指で拭った。 「芳村、こんなに俺が好きな癖に。泣くほど好きな癖に。バカだな」 その通りだ! 私はバカだ! もう、これで最後……次は…会う事もない明日からの方が……海堂を永遠に失う辛さに比べれば、まだ会える日が約束されたこの会えなかった1カ月は耐えられた。 でも……本当に、海堂が何も言わずに一言二言交わした言葉だけで去って行った時に……明日から海堂と会えない事が胸に込み上げ急に寂しくなり怖くなった。 会えなくなった当初は辛くても時間が解決してくれると……思い込もうとした。 ……でも……やはり…私は海堂が好きだ‼︎ 最後だから…素直になっても良いのだろうか⁉︎ 「私も…今日……海堂とこのまま会えなくなる…海堂が……諦めたんだと……そう…思ったら……海堂を失うって思ったら……怖かった」 涙がポロポロ…溢れ出て、顎からポタッポタッ…膝の辺りで握り締めてた手に落ちた。 海堂は優しく、今度はハンカチで私の涙を拭った 「ほんと、教師の癖に全然解ってない。俺を失うのが怖い程好きだって、やっと解った?」 「……う…ん」 私の涙が止まらず、海堂はずっと涙を優しく拭いてくれる。 「海堂……校門出て…帰ったんじゃ」 「ああ、1度正門出て、少し先の所で親父と母さんが車で待ってたからな。卒業式には、やはり出席は遠慮したようだ。でも最後だからって、俺の高校生の姿を見たいってさ。で、式が終わる時間に車で待ってたってわけ。そんで、親父と母さんと3人で写メ撮って少し話して帰ってった。そう言えば、ありがとうな。母さんに ’卒業式には、気にしないで出席して下さい‘ って、電話したんだって?芳村の気遣いに喜んでた。礼も言ってた」 今度は優しい眼差しで私の頭を撫で話す。 「そうか、良いご両親だな」 そんなご両親に……私は……すみません。 海堂のご両親の事を考えると……止まりそうだった涙が出て、海堂は撫でてた手を止めまたハンカチで拭った。 「芳村、泣き過ぎ~。そんなに俺が好きだって事だろうけどさ。で、話す気になった?今、言わないと、本当に俺を失うからな! マジで……これが最後だ‼︎」 海堂は今度は真剣な目と顔で私を見た。 本当に……最後かも……知らない……。 「海堂に言ってもどうにもならないし困らせるだけだ……それが解ってるから……言えなかった」 目に涙が溜まり、海堂の顔がぼやけて見える。 海堂を失う怖さを今日初めて解った。 海堂から離れるような事を言ったり遠ざけたりしたけど……それはまだ学校で会えて遠くからでも海堂の姿が見られる……だからまだ強気で居られた……でも今日を逃したら…この最後のチャンスを海堂がくれた。 最後だと思って言おう……と、口を開き掛けた時 「芳村、式終わって最後にクラスの皆んなに言ったよな。1人で悩みを抱えるなって、誰かに打ち明けろって……それ芳村にも言える事だよ。何度も言ってるけど、芳村には俺が居る! それは忘れないで欲しい」 何度も言われた事だった。 こんな私に……ありがと。 「……実家に帰省する前までは……それまでは本当に海堂との事に幸せで浮かれてた」 やっと話す気になったか? 確かに、帰省してから様子がおかしいと思った。 そして俺も芳村と同じで浮かれてた。 「ん、それで?実家に帰省して何かあった?結婚の話しもあった?」 「確かに、母親からは結婚話しは少しはあった、でも、久し振りに会った息子に世間話し程度だった、実家で姪っ子達と遊んだり玩具買ってあげたりしてるうちに……思ったんだ」 「何を?」 今の話では何の事か解らない。 「海堂の将来だよ」 「俺の将来?やはり俺の為?」 「男同士で付き合う事も秘密の関係だ。それは、まあ良い。私では…男の私では……この先、付き合っていっても海堂の子供を産む事はできない! 今は海堂も若さと勢いで先の事を考えて無いだろうけど…。海堂の実家は何代か続く組だろ?跡継ぎは必要だ! 私には子供を作るのは無理だが……海堂は女性も抱けるし、これから結婚もできる…そして跡継ぎの子供も授かり…そんな将来を壊したくない‼︎ 私には…どうにも出来ない事だけど……自分からは離れる事が出来ず悩んでる事も言わず……狡いけど……海堂から離れてくれるように仕向けた」 ……とうとう言ってしまった。 今度は海堂を悩ませ困らせるだけなのに……でも 最後と思うと……言わずに居られなかった。 ごめん、海堂。 「芳村! 悩んでる原因は解った。1つだけ教えて欲しい。彼女とは別れてるんだろ?結婚話も嘘で2股も掛けてないんだよな?」 それだけは確認しておきたかった。 「彼女とは……海堂からクリスマスを一緒に過ごしたい!って言われた時から……違うな……その前から海堂の事で頭がいっぱいになってた。それでこんな気持ちでは彼女に悪い……彼女の事も好きだけど……海堂とは違うんだ。彼女とは……一緒に居て落ち着くって言うか穏やかで恋人って言う感じではなかった…強いて言うなら…妹みたいな存在かな……それに薄々気付いて居ながら傷つけたくないし特に不満もないから……先延ばしにしてた。でも、海堂からの告白に……情熱と強引さに……恋愛って、こんなにドキドキ…するんだって思い知らされた。そして彼女には正直に言って別れを切り出した。クリスマス前には別れてた。彼女が悪いわけじゃないけど……辛い思いをさせてしまった」 やはりそうか、芳村からの思わせ振りな言い方にすっかり騙されてそう思い込んでた。 これで俺の方は解決した。 「芳村の嘘にはすっかり騙された。芳村さ、この後なんかある?」 この後? 何をする気だ? 「職員室で少し話しがあるはずだが…」」 「そう、それなら大丈夫だな。芳村、帰る用意しろ! 俺、裏門で待ってるから、車で来いよ」 そう言って何がなんだか解らないうちに、私の返事も聞かず海堂が教務室を出て行ったドアを唖然とし見てた。 涙もいつの間にか止まり、海堂に全て話した事で心は軽くなってたが、私の話しを聞いても何も言わずに海堂は何をしようとしてるのか?海堂の行動の意味が解らない。 今から? でも、職員室に……たぶん打ち上げの話しや明日の式の片付けの話しだろう……。 そんな事より…これで最後かも知れない……何か解らないが、海堂と一緒にまだ居られる。 後で、注意されるか.怒られるかも知れないが……今は……海堂に着いて行こう! 私は鞄と車の鍵を持って教務室を出た。

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