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第130話
裏門で待ってた海堂を乗せ、取り敢えず学校から離れた。
「海堂、どこに行くんだ?」
「俺の家」
思ってもみなかった返事に驚き、ハンドル操作が危うかった。
「危ねぇ~な。気を付けろよー」
「悪い.悪い。そんな事より、何で海堂の自宅へ?」
「ま、行けば解る。大体の場所は解るよな?近くになったら起こして。そこから案内するから」
わけが解らないが、海堂は欠伸をし相当眠いようだ。
直ぐに、助手席で寝息が聞こえた。
疲れてるみたいだな。
自由登校になり卒業練習にも来ず、昨日まで何をしてたんだ?
そして、この海堂の強引な行動と何も言わない事に……私は何も解らないまま海堂の実家へと車を走らせてた。
それから2時間弱で海堂の実家の近くまで来て、熟睡する海堂を起こし道案内され自宅の敷地に車を入れた。
初めて海堂の実家を見た。
極道らしく、昔ながらの日本家屋で平屋の大きな家で……家って言うより屋敷だな。
敷地も広く庭も日本庭園で、そして門構えも立派で塀も高くセキュリティもしっかりしてる。
「凄い、大きな家だな」
思わず声に出してた。
「そう?別に普通じゃねー。それより降りて家に入るぞ」
車から降りた海堂のあとを追った。
玄関も凄い!
海堂は生まれ育った家だから、これが普通なのかも知れないが、日本の住宅事情には少し疎いみたいだ。
「入れよ」
「お邪魔します」
実家に連れて来て……部屋でも見せるのか?
それとも話しをゆっくりする為?
広く長い廊下を歩いてると
「あっ! お帰りなさい」
小さな子供が海堂を見つけ声を掛けてきた。
「ああ、尊か。丁度良い、挨拶しろ。こいつ俺の高校の担任の芳村優希さん。で、このちっこいのが海堂尊だ」
「尊です。よろしくおねがいします」
「こちらこそ、宜しくお願いします。芳村です」
小さいのにきちんと挨拶出来て偉いと思った。
そして直ぐにどこかに行ってしまった。
確か…あの子は……調査書では海堂の弟だ。
担任になったばかりの時に、クラス全員の調査書類を見てた。
年の離れた弟が居る事に、家庭の事情だろうと…愛人の子供を認知したんだろうと思い散策はしなかった。
しっかりした子だ。
他県から寮に入ってる生徒も居るので家庭訪問も出来ず、調査書で家族構成や健康状態を確認するのが我が校では当たり前だった。
余程の問題やら不登校などなければ家庭訪問はしない。
だから初めて訪問した海堂の家の大きさに驚いた
そして海堂は屋敷の奥の部屋の前に止まり声を掛けた。
「親父、入るぞ」
「龍臣か?帰って来たのか?入れ」
襖を開けた部屋には、親父と母さんが座ってた。
まだ、帰って間もないのか?
親父はスーツで母さんは着物を着てお茶を飲んでた。
「お前、今日、帰って来る予定だったか?」
「明日のつもりだったけどな。急用があって帰って来た。入れよ」
まだ廊下に居る芳村を呼ぶと恐縮しながら部屋に入って俺の隣に立つと、芳村の姿を見た親父が驚いてた。
「せ.先生。わざわざ起こし下さったんですか?おい! こちら、龍臣の担任の芳村先生だ」
親父が母さんに芳村を紹介すると、母さんも慌てて挨拶した。
「初めまして、龍臣の母です。この間は、ご丁寧にお電話頂きまして、ありがとうございました」
「初めまして、担任の芳村と申します。突然、申し訳ございません」
「先生、そんな所立ってないで。どうぞ、お座り下さい」
「はい、ありがとうございます」
芳村がどこに座るのか迷ってるようだったから、俺が親父達の正面にドサッと胡座を掻き座ると芳村も隣に正座をして座った。
母さんが俺と芳村にお茶を出し、親父が口を開いた。
「龍臣、何かあったのか?先生まで連れて」
「親父と母さんに話しがあってな。芳村にも聞いて貰おうと思って連れて来た」
親父は訝しげ顔をし、母さんは不思議そうな顔をした。
「それで話しとは?」
「親父、母さん! 俺、芳村とこの先もずっと付き合っていく‼︎ 男同士とか色々問題あるかもしんねーけど、俺、芳村が好きなんだ‼︎ 俺が一目惚れして強引に口説いて、やっと芳村も受け入れてくれた。隠れて付き合うのが性に合わねーし、親父や母さんには理解して貰おうと思ってない、いや、本当は理解して欲しいし応援もして欲しいけど、無理なら責めて事実だけは知ってて欲しい。俺、芳村が好きで好きで…芳村無しでは、俺の人生考えられない!」
俺は多少緊張もしたが迷う事なく一気に力説した
芳村はこんな事を言われると思って無かったようで、慌ててたが結局黙って聞いてた。
親父と母さんは流石に驚き神妙な顔をして聞いてた。
長い沈黙の後に、親父が口を開いた。
「お前の気持ちは解ったが、先生も同じ気持ちなのか?お前と付き合うと言う事がどう言う事か?解ってるのか?」
「芳村も同じ気持ちだ!」
「お前に聞いてない。先生に聞いてる」
俺は芳村を見た、そして芳村も俺を見て1度深呼吸し覚悟を決めた顔をしうなづいた。
「……ご両親には、本当に申し訳ありません。私も散々悩み考えました。そして海堂と離れる事まで考えて……でも、海堂が居なくなる.離れると思うと決心が鈍り…胸が締め付けられ離れたくないと…何度もその繰り返しで…最後には、やはり海堂が好きだって辿り着くんです。海堂と付き合う事がどう言う事か?も解ってます。それに男同士.年齢の差なども……それでも、やはり海堂が好きなんです。海堂の将来を考え……家業を継ぐ事や結婚し子供を作り跡継ぎを残す……そう言う事も考えました。男の私には結婚も子供もできませんそれでも……好きなんです」
最後は涙を流し、親父と母さんに頭を下げた芳村の真剣な気持ちが痛い程伝わった。
「芳村が俺の将来を考えて、何も言わずに別れようとか離れようとした事は凄え~悲しかった。結婚や跡継ぎの件で悩んでたなら言ってくれれば良かったんだ」
「でも、言ったら……お前は…全て捨てると言い出しそうで……言えなかった」
「跡継ぎの事なら解決済みだ‼︎ さっき廊下で尊と会っただろ?あの尊は俺の子なんだ。戸籍上は養子縁組して親父達の子供になり俺の弟って事にしてるけどな。正真正銘…俺の子。だから俺の跡継ぎは尊って事」
俺の暴露話に、芳村は息を止め目を見開き驚き、そしてやっと理解し複雑な顔をしてた。
「先生、それに関しては本当の事です。家の者は殆ど知ってる人は居ない。もちろん尊も知らない事です。わしと母さんと龍臣と一部のわしに近い者しか知りません。その事を先生に話すと言う事は、龍臣が本気なんだと解ります。こいつは言い出したら聞かない奴でね。わしも母さんも古い考えで、悪いがまだ何とも言えないが…先生が良い人だと言う事は解ってます。龍臣が惚れるのも解ります。正直言うと…先生が女なら何の問題もないし女なら良かったと思ってます」
「親父、それは言ったってしゃーねーよ。俺は芳村が男でも女でもどっちにしろ惚れてた。俺は親父や母さんにも芳村の事解って欲しい。隠れて付き合うのは嫌だから、今日はその事を言いに来たまでだ。出来れば、俺達の事を理解して欲しい」
「……男同士で、どこまで付き合う事ができるか?世間の目は冷たい事は解ってるだろ?家の事情もある。それも解った上で付き合うって事は……どこまで付き合えるのか……見届けてやろう。それしか今は言えん」
それは許してくれたとほぼ同じだ。
「ありがとう、親父。俺、芳村が居れば何でも出来る気がする。芳村と幸せになりたい‼︎」
「……先生、こんな奴ですが宜しく頼みます。もし嫌になったら、いつでも遠慮なく捨てて下さい」
親父が芳村に頭を下げると母さんも頭を下げた。
こんな場面は2度目だな。
今度は俺の幸せの為に頭を下げてくれた。
「親御さんの複雑な気持ちは解ってるつもりです本当に、こんな事になって申し訳ありません」
芳村も親父達に頭を下げて泣きそうな顔をしてた
「俺、これから芳村と生きてく為に頑張る!」
「大切な人が出来ると、その人の為に頑張れるもんだ。龍臣にも、そう言う人が出来たって事だな」
「本当だな。俺、親父や母さんに理解して貰えなくても、俺と芳村の仲を知ってて欲しかった。ありがとう」
「付き合うのは構わん。男同士でどれくらい真剣に付き合えるのか、龍臣の本気も見てやろう。それが解ったら、少しずつ認めてやろう。母さん、それで良いかな?」
「正直言うと……龍臣には、結婚して子供もたくさん作って老後は孫達と賑やかに暮らしたかったわ。でも、このご時世で極道の所にお嫁に来ようと言う人も居ないかも知れないしねー。尊も居るし…怖い嫁より先生の方が良いかもね?」
「母さん、ごめんな。でも、どんな良い女より俺には芳村が1番良いんだ」
「そうね。龍臣の人生だもの。好きな人と一緒に居るのが一番だわね」
そう言って母さんは笑った。
これで芳村の悩みも解決したな。
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