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第一章・8

「フン!」  わざと口に出して、その場にはいない暁斗を罵ってみる。  そうしながらも、棚を開けてパンを取り出し皿に乗せる。  美しいものは好きだが、美食に耽る趣味は持たない昴だったので、それに果物とワインを添えて簡単な夕食を摂った。  部屋を降りてダイニングへ行けば、栄養のバランスを考えて作られた、ちゃんとした夕食にありつける。  しかし、もうこの時刻にはたっぷり食べる気がしなかった。  美しい僕には、質素すぎる食事。 「それもこれもみんな、あの柏のせいなんだ」  そこで、ふと彼の言葉が思い出された。 『……一緒に遊郭へ遊びに行きませんか……』  行くのかな。妓館に。

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