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第一章・16

 そして、そんな近寄りがたいほど美しい彼が時折見せる、可愛らしさも好きだった。  今日だってそうだ。馬の交尾を見た時の慌てようときたら。  彼はまだ、幼い部分を残しているのだ。  人間は、完全無欠ではない。  どこかしら、欠けた部分を持っている。  そして、寄り添いあって互いに欠けた部分を埋めあってゆくのがまた、人間というものだ。 「では、失礼」  暁斗は、昴の白い頬に手を添えると、そろそろと顔を近づけていった。  我慢比べだ。  どちらかが、怖気づいて顔を離すまでの、甘い遊び。  そしてそれは、絶対に昴の負けだと暁斗は信じて疑わなかった。  だが、昴は思いのほか頑張った。  顔が近付き、鼻が触れ、唇がわずかにかするところまでやってきても、動こうとしない。  息をつめ、こぶしを握り、長い睫毛を震わせて上を向いたままだ。

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