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第一章・32

 また来てるぜ、昴様。  馬場の馬丁たちが、一斉に張り切りだす。  昴様の見ている前で、ヘマなんか仕出かせない。  そんな彼らの士気を自分が高めているとはつゆ知らず、昴の方はいつもと違う決意を胸に、この馬場へやってきていた。  やはり、臭う。  それを何とかやり過ごし、ついに彼は柵の内側へと入っていった。 「昴様!?」 「馬を、見せてくれないか」    まさか、ところどころに馬糞まで落ちている馬場の中まで入ってきなさるとは!  馬丁たちは大喜びで、今ここにいる馬の中でも一番の駿馬を引いてきた。 『馬は匂いで相手を探ります。馬に匂いを嗅がせると、馬を安心させる事ができるのです』  暁斗の言葉を思い出す。  そっと、手を馬の鼻先に差し伸ばしてみた。  馬の鼻は、やはり湿っている気配がした。  ふんふんと、その大きな鼻の穴をひくひくさせて匂いを嗅いでいる。

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