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第二章・11
「バラの香りがします」
暁斗はそう囁いて、ついには柔らかな脇の肉を甘噛みした。
「ぁんッ!」
跳ねるような、昴の甘い悲鳴。
それを合図に、暁斗は彼の腕から離れていった。
「これで帳消しです。司書のことは、忘れましょう」
そして、まるで何もなかったように酒を口にする。
僕はこんなに熱いのに。
胸がどきどきして、張り裂けそうなのに。
「暁斗」
「まだ、何か」
「キスしても……、いいよ」
本気か? と暁斗は手にした杯を置いた。
この麗しい美の化身の体を味わったことは、まだ記憶に新しい。
だが、あれは酒に酔って気の大きくなった昴が、ほんの遊びで許したものだと次第に思うようになっていた。
その後の彼は、これまでと何の変わりもなくただの主人で、勤務中でも些細な言葉を交わすだけだったから。
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