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第四章・4
「これを、昴様に」
一日を終え、自室へと戻ろうとする昴を呼び留める声がする。
顔を見なくてもわかる。
この、低くて柔らかい響きは暁斗の声。
もったいぶって振り返ると、手に小さな花束を持った暁斗が立っていた。
息を呑み、心の中で昴は感嘆の声をあげていた。
あの暁斗が、僕に花を。
赤いバラの気分の僕に、花束を渡してくるなんて。
白くて可愛い、カミツレソウの花束。
花を買いに出る時間など、なかったはずだ。
暇を見つけて、自生の花をその手で摘んでくれたに違いない。
それを証拠にリボンなど洒落たものではなく、草の繊維で編んだ粗野な紐で括ってある。
それでも嬉しく花を受け取り、二人で執事の間へと向かった。
昴の心はすでに暁斗の部屋にとどまる気持ちだったので、にこにこと愛想よくお喋りなどしながらゆるりと歩いた。
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