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第四章・8

 小腹がすいていたのか、昴は暁斗の用意した夕食をぱくぱく食べた。  だがその仕草には、いつものような優美さがやや欠けている。  やはり、機嫌が悪いと見える。  暁斗は肩をすくめる心地で、エビの皿を昴の方へ寄越した。  焼いて塩を振っただけだが、暁斗にしては上出来だ。  キッチンへ立つことなど滅多にないこの男が、調理めいたことをやっている。  それだけだが、昴の胸はふわりと温まった。 「おいしい」 「良うございました」  簡単な会話だが、一度交わすと後が続きやすい。  昴は、本当はまだ怒ってるんだから、といった響きをわざと含めて暁斗に話しかけた。 「これ、どこに咲いてたの?」  食卓を飾る、カミツレソウの花。  初夏に咲く、何の変哲もない花。  嬉しくなんて、ないんだから。

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