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第四章・9
「鶏の放牧場があるでしょう。あそこに咲いていました」
緑豊かな養鶏場は、屋敷からずいぶん離れたところにある。
あんなところまで、足を伸ばしてくれたのか。暁斗は。
「鶏は牧草をよくむしりますが、この花だけは苦手のようです。結構たくさん残っていました」
「きっと、この花の香りが苦手なんだよ、ニワトリは。ハーブだからね、カミツレソウって」
「そうですか。しかし、私が花を失敬しようとするとつつきました」
暁斗の腕には、なるほど少し赤い痕が残っている。
ニワトリにつつかれながら花を摘む暁斗の姿を思い描いて、昴は笑った。
楽しそうな、無邪気な笑顔。
怒った顔は魅力的だ。
泣きっ面にもそそられる。
だがやはり、この御方には笑顔でいて欲しい。
「エビは美味しいけど、殻を剥く時に手が汚れちゃうな」
「貸してください。剥いて差し上げましょう」
暁斗は、もくもくとエビの殻を剥いてゆく。
剥いてもらったエビをつまんで、ぱくりと頬張る昴のご機嫌は、すっかり治っていた。
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