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第四章・10

「ねえ、暁斗。もう一度訊くけど、好きな花は何?」  そう言って、昴は胸に飾った赤いバラを手に取り、暁斗の前でくるくる回して見せた。  ことさらに見せつけ、その鼻先にまで押し付けた。  そうか。  そこまでされて、暁斗はようやく悟った。  突然不機嫌になったのは、俺がミヤコワスレが好きだ、なんて言ったからだ。  昴様は、バラだと言って欲しかったに違いない。  バラは、いわば昴様の分身なのだから。 「そうですね、ミヤコワスレが好きでした。以前は」 「今は?」 「バラです。バラの花が好きです」 「よくできました」  ふふん、と誇らしげに笑う、昴。  こんなドヤ顔でさえ愛らしいのだから、まったくもって参った。  多分俺は、もはや病気に違いない。  草津の湯でも治らない、重病人だ。

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