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第四章・11

「暁斗、エビ臭い。お風呂、入って来てよ」 「解りました」  これで許してくれた、ということが解かった。  そして、湯から上がればその体も許してくれるという事も。  エビ臭いと言われてしまったので、念入りに手を洗った。  汗を流し、さっぱりして浴室から出ると、昴の姿が無い。  食卓に飾っておいた、カミツレソウの花もない。  代わりに、バラの花が一輪グラスに活けてあった。  そっと寝室を覗くと、果たしてベッドに昴が横たわっていた。  すでにその白い滑らかな素肌を惜しげもなくさらし、所在無げに掲げた片手を握ったり開いたりしている。  ドアの開く気配に、顔だけこちらに向ける。  手には、カミツレソウの花束が。  そしてそれは、大切に丁寧に、ベッドのサイドテーブルに飾られた。  開け放たれた窓からは、もう温んだ初夏の風がそっと忍び込んでくる。  今年初めての、地虫の鳴く音が運ばれてくる。 「暁斗」  甘い息を吐くような、誘う声。  麗しいバラの花を摘みに、暁斗はベッドへと近寄って行った。

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