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第五章・8

「暁斗」  待ち焦がれていた愛しい主。  だがその声は、曇っていた。  夜の昴は、悲しそうだった。  こつりこつりと、床を踏む音。  その足取りも、やたらゆっくりで。  重い足を、ひとつふたつと動かしながらやってくる。  そんな主を心配し、暁斗は自分から声をかけていた。 「どうなさいました」 「……」  返事が無い。  返事はないが、昴は暁斗の隣に腰かけた。  少し、間を開けて。  寄り添うようにと肩を抱き、自分の方へ引き寄せた暁斗の力に、逆らう素振りも見せない。 「どうなさいました?」  先程より、少し声に色を付けた。  低い、柔らかな声。  暁斗の声を、昴は好いていた。  聞けば、ほっとする。心がぽかりと温まる、そんな優しい声。  だが、今夜はそんな優しさが逆に悲しかった。

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