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第五章・9

 だんまりを続ける昴は、やがて物憂げに暁斗から体を離すと意外な言葉を呟いた。 「おめでとう、暁斗」 「?」  何が、めでたいのか。  俺の知らないところで、いい話でもあったのだろうか? 「何がでございますか?」  解からないので素直に訊くと、主も素直に答えてきた。  だが、やはり曇った響きで。 「結婚、するんだろう? 水臭いな。僕に、真っ先に教えて欲しかった」    はぁ!?  あっけにとられた暁斗の顔は、月が陰ったおかげで闇の中。昴には見えない。  そのまま、淡々と話を続けるものだから、暁斗はまるで他人事を聞いているように耳を傾けた。 「古川が言ってた。暁斗が久保田先生の作ったお菓子を食べて、『毎日あなたの手料理を食べさせて欲しい』ってプロポーズしたらしい、って」  暁斗は、黙っていた。  そして、再び意外に感じていた。

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