129 / 193
第五章・10
おそらくは、あの押し苦しい女とその取り巻きが、俺が焼き菓子一口食べただけでそこまで話を大きくしたのだろう。
だが、それ以上に昴の反応に驚いていた。
俺が勝手に他の人間と一緒になると知ればヒステリックに噛みついて、ぷんすか怒って見せるだろうと思ったからだ。
ただ、静かにうなだれる。
そんな昴の肩を、暁斗は改めて引き寄せた。
細くて小さな顎に手を掛け上を向かせてみると、雲の切れ間から覗いた月の光にその瞳は濡れて光っていた。
月の明かりが眩しいのか、昴はゆっくりと瞼を閉じる。
涙が零れはしなかったが、その睫はしっとりと濡れていた。
少し意地悪だな、とは思ったが、暁斗は問いかけてみた。
「私が結婚すると、悔しいですか?」
「……」
「悲しいですか?」
「……」
返事はなく、ただ黙って首を横に振る昴。
一言だけ、ぽつりと言った。
「淋しい」
淋しい主は、はぁっ、と大きく温かい息を吐くと、暁斗の肩に頭を預けてきた。
その言葉に、吐息に、暁斗の心はひどく熱くなり始めた。
ともだちにシェアしよう!