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第五章・11

 下を向く昴の顎にもう一度手を掛けようとしたが、嫌がって背けてしまう。  少し強引に頬に掌を当てこちらを向かせてみると、目線だけ逸らす。  こんなに弱々しい彼を見る事は初めてで、やたら新鮮だった。  仲を深めながら共に歩んで、まもなく一年。  それでもまだまだ未知の魅力を持っているのだ。  今さらながら、惚れ直す心地を感じた。  掌を、頬からじんわり上へと撫でる。  頬からこめかみへ、こめかみから額へ。  そして朝に見た、跳ねた寝癖の跡をさらりとすくうと、露わになった眉間に唇を軽く押し当てた。  途端に、弾かれたように昴は首を捩った。 「あ、暁斗は、さ。家庭を持つ、って似合うよね。優しいお父さんになったり、するよね。きっと」  無理に明るい声でそんな事を口にする昴が、暁斗はただ悲しくて嬉しくて。  もう何も言わないように、自分の胸に彼の頭を押し付けた。  体を被せて強く抱きしめた。

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