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第五章・14
「私は」
今度は暁斗が話し始めたので、昴は少しだけ顔を挙げた。
暁斗の眼を見ながら、話しを聞き始めた。
彼の眼は昴の方を向いてはいなかったが、そのまなざしはいつも以上に穏やかだった。
「私はこれまで、誰よりも上質な人間になるために生まれてきたのだと思っていました。己の理知を見極めるために生まれ、生きてきたのだと思っていました」
私の故郷は、やたら田舎でして、と暁斗は照れたように微笑む。
「もっともっと、広い世界で自分を磨きたかったし、試してみたかったのです」
そして、藤原家の執事になった。
屈指の名門と謳われる家の執事となった。
俺は、藤原家の執事になるために、生まれてきたのだと思った。
「ですが」
そこでようやく、暁斗は昴の方を見た。
月の光を宿した黒い眼は、黒曜石のように輝いていた。
「藤原家の執事としての私はそうなのですが、一人の人間として、柏 暁斗という男として生まれた意味は、違うと思うようになりました」
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