135 / 193
第五章・16
「あなたは、月のようです」
そう言って、暁斗は昴を愛でた。
「満ちては欠け、そしてまた満ちる。毎日、いや会うたびにくるくると表情を変える」
そして私は、あなたのそんなところに惹かれたのです、と暁斗は昴を愛でた。
優しく髪を弄られながら、昴は眼を閉じて暁斗の香りを胸いっぱいに吸っていた。
あぁ。確か1年前の今頃に、円い月を見ながら僕は暁斗の事が好きなんだ、と自覚したんだっけ。
今宵は満月。
そう言いながら暁斗は昴からそっと離れると、平たい杯に酒を注いだ。
杯には円い月が揺れながら映っており、昴は酒の香りに軽く酔った心地を感じた。
いや、酔っているのは暁斗のせいだ。
ひどくのぼせているのは、暁斗がやけに甘くて強い言葉をさんざん飲ませてくるからだ。
暁斗は、杯の中の満月を飲んだ。
一口、二口。そして三口。
三度に分けて飲み干した。
ともだちにシェアしよう!