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第五章・25

「ぐあッ!」  がつん、と鼻に固い何かがぶつかり、暁斗は慌てて飛び起きた。  咄嗟に顔に手をやると、赤いものが付いて来た。 「鼻血か……」  初夜明けの朝に、よりによって鼻血か。  胸の中に、しっかりと抱いて眠ったはずの昴。  だがその足が、なぜか暁斗の枕元にある。  完全に逆さまになって、それでもすうすうと安らかに眠っている。 「昴様、起きてください。朝です」 「ヤだ」 「朝食の席に遅れますよ」 「行かない。今日は抜ける」  またこの主様は、と暁斗は頭を抱えた。  臥所を供にした翌朝は、いつもこうだ。 「朝食、作ってあげますから」 「……」  ダメか、と思ったその時に、小さな声が聞こえた。 「オムレツ。ふわふわとろとろで、甘いの」  はいはい、と暁斗はベッドから這い出し、手早くシャワーを浴びると調理に取り掛かった。

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