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* 由紀side

「由紀ッ!あんたの夕食よ、きちんと食べなさい。」 僕の住む薄暗い物置部屋に乱暴に置かれた夕飯。 野菜の切れ端が入った雑炊に申し訳程度の大きさの焼き魚。 使用人ですらもう少し良い賄いだろうが、こんな食事ももう慣れたものだ。 今から十年前、母の死後、僕はこの屋敷で住むようになった。 留学先のフランスで母は父と恋に落ち、はるばる日本までやって来たが、父には既に許嫁がいた。 傾きかけた伯爵家を立て直すために商家の娘との結婚が決まっていたのだ。 父は結婚後も秘密裏に母と会っていたが、やがて妻、つまり僕の継母に知られてしまい、別れることとなった。 当時母のお腹には僕がいて、母は父に伝えることも出来ず、一人で産んで育てたのだ。 しかしながら、身寄りのない外国人の女性が子供を抱えて暮らしていくのは決して楽なことではなく、苦労の末に母は病死した。 何の由縁があってか、母の死と僕の存在は父に伝わり、引き取られることとなった。 父と継母の夫婦仲はあまり良好ではなく、夫を盗られた恨みか、継母は僕を埃まみれの汚い物置部屋に住まわせ、僅かな食事と粗末な衣服を与え、 罵り、時には暴力を振るうこともある。 母の実家から多額の金銭的支援を受けている為に、父は継母咎めることは無く、例え愛していた女との息子であっても十年間存在すら知らなかった僕を庇い立てすることも無い。 継母の息子達も、彼女の僕に対する態度を見て真似たのか、三人の兄達が僕を蹴ったり殴ったりするのは日常茶飯事だった。 だった、というのも、長兄は既に家庭を持ち、もう一人は留学の為に渡米している。 今家にいるのは、一つ上の光治だけだ。

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