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第2話
やっぱり男か。そうだよな、握った手も結構ゴツかったもんなぁ――落胆しながら俺は、受付に戻ろうと細長い廊下を急いだ。
廊下の両側にある小部屋からは様々な音がもれていた。特に夜8時を回った頃には、歌声、合いの手、笑い声、マラカスにタンバリンの音などが絶え間なく聞えて来る。
俺が今いるのは、バイト先のカラオケボックスの廊下である。
トイレの備品チェックを終わらせた俺は、受け付けに戻ろうとしている途中、つまずいて転んでしまった。
で、ちょうどその場面を、トイレに向かう途中の彼に見られ、そのうえ助けられてしまったのだ。
俺の心の中では、可愛らしい人と出あえてラッキーと思う気持ちと、転んだだけの男に手を差し伸べるなんて恥ずかしいことをしないで、気づかぬふりをしてくれれば良かったのにと言う気持ちがせめぎ合っていた。
受け付けカウンターに戻ると、俺はモヤモヤした気持ちのまま、バイト仲間の進藤に、今起きたことを愚痴り始めた。
不覚にも廊下で転んでしまったこと、しかもそれを人に見られ、その見られた相手の顔がめちゃくちゃ好みだったこと。でも、その人は残念なことに男だったってこと――。
笑い話にすれば、少しはスッキリするんじゃないかと思った。
「残念だったなぁ、鷹人。まぁ、人生そんなものさ」
進藤は周りに人が居ないのを良いことに、しばらく笑ってからそう言った。
「チェッ、あっさり言ってくれるよなぁ。それにしても、あんな人も居るんだな。なんかオーラが普通の人と違ってたよ……」
俺がそう言うと、進藤が手をパンと叩いた。
「あぁ、それって多分、サーベルのシュンだよ。お前がシフトに入る前から来てたみたいだぜ。他のバイトの奴も言ってたんだけど、サーベルのメンバーって時々ここに来るんだってさ。まぁ、芸能人だからオーラも違うんじゃねーの」
進藤がカウンターの後ろで店のパソコンをいじりながらそう言った。転んだことをスルーしてもらえたのは幸いだったかも知れない。
「ラベル? シャベル? そのベルって何だよ」
「おまえ知らねーの? バンドだよ、サーベルってさぁ、結構有名だぜ」
進藤が後ろの席から立ち上がって俺の隣にやってきた。
「へぇ、俺知らない。歌とかほとんど聴かないし」
そう答えたら、進藤が俺の背中をバシッと叩いた。客が目の前に居ないからって、容赦なさすぎだって。
「だめだなー。そういう事も知っておかなきゃさぁ」
俺は進藤の言い方にイラッとして、手元のペンをカチカチとならした。進藤は悪いやつじゃないけれど、いちいち絡んでくるので面倒な時もあるのだ。
「別に知らなくたって生活に支障がないから良いんだよ」
「そう言うのがダメだっていうんだよ。世の中の動きにもう少し興味を持たないと、将来仕事する時に不利だぜ」
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