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第4話

 俺はドキドキしながらトレイに乗ったサワーを運んだ。絶対に転ばないように慎重に。 そして107号室の前に着くと、深呼吸をしてからドアをノックした。ノックしても返事があるわけじゃないのはわかっているけれど、お約束事としてということで。  ドアを開け部屋に入ると、音が一気に押し寄せてくる。頭がクラッとする瞬間だ。 チラッと部屋の中を見ると、ちょうどシュンが画面の歌詞を目で追いながら歌っているところだった。 『やっぱり可愛いかも……』  シュンの横顔に見とれながら俺はそう思っていた。 「おまたせしました」  すぐに我に返った俺は、屈んでテーブルに飲み物を並べ始めた。  そして、最後のグラスをテーブルに置こうとした時、上機嫌で歌っていたシュンが俺のすぐそばまで来ていたのだ。それに気づいてしまった俺は、緊張して手が震えそうだった。  とりあえず飲み物を無事に置き終えた俺は、ホッとして立ち上がろうとした。するとその時、突然シュンが俺の肩に腕をまわし、そのまま歌い続けたのだ。  俺の心臓はあり得ない出来事に、尋常じゃないほど激しく鼓動していた――。 だけど、俺の動揺に気づく様子もなく、シュンはしばらく中腰でいる俺の肩に手をまわしたまま歌っていた。15㎝以上も背の低いシュンに合わせるような格好になっていたので、俺的にはかなりしんどかった。でも、思いきり立ち上がるのもシュンに悪いような気がしてしまい出来ずにいた。 「ほら、シュン、バイトの人が困ってるじゃないか!」 シュンの仲間の1人がそう言った。 「そうだよ。チビのお前に合わせてるから、かなり辛そうだぜ」  他の人の声がした。その声に反発するようにシュンは俺に回した腕に力を入れた。俺は顔を上げられないままヨロヨロとシュンに寄りかかった。 「うるさいなぁー。俺は気持ち良く歌ってんだってば。なーっ!」  シュンが、体勢を整えようとしている俺に、同意を求めるかのように、そう言いながら顔を向けた。シュンの顔がちょうど目の前に来て、俺はメチャクチャ焦ってしまった。 その後、しばらくシュンが俺を見つめているような気がして、緊張を通り越し頭の中がパニックになっていた。 「あー、さっきの君だよね? ごめん、ごめん」  すぐにシュンは視線をそらすと、肩に回していた腕を外して俺を解放してくれた。 「い、いえ。では、失礼します……」  さっき転んだ姿を見られてしまった恥ずかしさもあり、俺は慌ててお辞儀をすると、シュンの顔を見ることも出来ないまま部屋を出た。

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