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第5話
俺は部屋の前でしばらく深呼吸を繰り返し、胸の鼓動を鎮めようとした。部屋の中からは賑やかな笑い声が聞えてきた。
それにしても、めちゃくちゃ焦った。一瞬とは言え、至近距離で見たシュンの顔は、俺と同性だなんて思えないような綺麗な造りだった。
黒目がちの瞳が酔って色っぽく見えた――って、いやいや、彼は男なんだってば。
それにしても、さっきのシュンの視線、俺に何か訴えかけているように見えたんだけど? ただの思い過ごしだろうか。
俺はもう一度深呼吸をしてから進藤の待つ受付に急いで戻った。
サーベルって、テレビに出たりするんだろうか? シュンの歌ってる姿を見てみたいな。画面の中のシュンはどんなだろう? きっと、今以上に綺麗なんだろうな――。
受付に戻る途中で俺は、初めてアイドルに恋をした中学生のような事を考えていた。
その後、シュンが帰る頃、俺はちょうどキッチンに引っ込んでいたので会う事が出来なかった。それが少し心残りだったけど、時々来るって言う話だから、また会えるかもしれない。
その日以来、サーベルの4枚出ているアルバムのうち、最新のものをスマホに入れて通学時に聴くようになった。
シュンの、力強く歌っているロックも好きだけど、心を擽るような甘い低音で歌うバラードには胸を打たれてしまった。カラオケボックスで一瞬見せた寂しげな表情のシュンにとても合っているような気がした。
歌を聴くようになってから俺は、ますますシュンを見てみたくなり、学校が無い日や、家で絵を描いている時も、音楽番組をつけっぱなしにしておいた。
ある休日、いつものように絵を描きながら音楽番組を流していた。アイドル系の曲が続いていたので、絵に没頭していると、突然、毎日聴き続けていたサーベルの曲が聞えてきた。しかもあのバラードだった。
俺は急いで顔を上げ、テレビの画面に視線を移した。画面の中のシュンは、カラオケボックスで会った時のような可愛らしいシュンではなく、とても美しく切なげだった。
俺はテレビの画面から目離せないでいた。
ヤバイなぁ……男に恋なんかするなよ、俺。
とは言え、まぁ、相手は芸能人なんだから、憧れるくらいなら構わないだろう。別にどうこうなる訳ないんだし――。
その頃俺は、サーベルというバンドのシュンっというボーカリストに、限りなく恋に近い感情を抱いていた。まぁ、俗にいう大ファンになったって事なんだと思うのだけど。
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