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第6話

 初めてシュンに会ってから1ヵ月半くらい過ぎたある日の夜、バイトで受付に入っている時、久しぶりにシュンが仲間と一緒にやってきた。 「いらっしゃいませ…」  俺は緊張のあまり、変な汗をかいてしまった。と言うのも、最近、夢にシュンが出ることが多くなってきたからだ。ライブ映像を観ていたり、他愛のない話をしたりするくらいの夢なのだけど、夢の中で俺は毎回とても激しい胸の高鳴りを覚えていたのだ。だから、目の前にシュンが来た今、俺の心臓はとんでもない状態になっていた。 「こんばんは。そう言えばきみ、この間はごめんな」  受付をしている間、シュンがそう言って俺のことを真っすぐに見つめた。初めてあった時のことだろう、内容はどうであれ覚えていてくれるんだと思うと、素直に嬉しかった。 「いえ、気にしないで下さい。こういう店だから、いろいろあるんで、慣れてますから……」  もっと気の利いたことを言えればいいのにと思っているのに、そんな当たり前のことしか答えられないでいる俺だった。とにかく、シュンの視線が熱すぎだ。 「110号室になります……」  決まりきった説明を済ませると、そう言って部屋へ促した。緊張していた俺は、その言葉を言い終わって正直ホッとしていた。 「ありがとう」  シュンの仲間がそう言って他の人とその場を離れた。 「あ、リュウ、俺ちょっと聞きたい事あるから、先に部屋行ってて」  歩き出した仲間に向かってシュンがそう言った。 「りょーかい」  リュウと呼ばれた人がそう答えてシュンに向かって手を振った。   仲間が見えなくなると、シュンが急にカウンターに両腕をついて俺を見上げてきたので、俺の心臓はさらにヤバイことになっていた。 「あのさ、前から聞いてみたかったんだけど」 「え、はい、なんでしょうか?」  まっすぐに向けられた視線にドギマギしながら俺は答えた。 手が微かに震えている。シュンにバレないと良いのだけど。こんな近くから向けられるシュンの視線は、今の俺には熱すぎる。  俺は隣にあるペンを取るふりをして、シュンの熱すぎる視線を避けた。 「カウンター後ろの絵とか、廊下に飾ってある絵ってさ、誰が描いた絵なのか知ってる?」 「えっと……」  俺は答えに困って言葉を濁した。 俺が描いたものなのだけど、自分で言うのは気が引けてしまった。 「鷹人が、いえ、こいつが描いたんですよ、シュンさん。こいつ今、絵の勉強中なんです。何かいい仕事あったら紹介してやって下さいよ」  返事に困っていると、いつの間にかキッチンから戻っていた進藤が話に割り込んできた。 「おい、止めろよ、進藤。なに図々しいこと言ってんだよ……」  俺は恥ずかしくて、進藤に文句を言った。 「お前はいつも遠慮しすぎ。自分から売り込まなきゃ、一生カラオケ屋のバイトだぜ」  なんでお前は、シュンの前で……。進藤がそういう事を言うやつだということはわかっているけれど、この場でそれを言わないでくれよ。 「そんな事ないさ。まだ、勉強してる最中だし」  いつか絵で食べていきたいとは思っているけれど――俺には自分を売り込む能力が圧倒的に欠けている。グイグイ行くことが恥ずかしいと思ってしまうのだ。 「バッカだなぁ。チャンスの神様には前髪しかないんだぞ!」 「何だよそれ」 「だからお前はなぁ――」  視線をシュンに戻すと、言い合っている俺たちのことを、クスクス笑いながら見ていたのだ。

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