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第10話

 その後、シュンが選んでくれた肴と、お酒を囲んでいろいろな話をした。 シュンが、音楽と出会ったきっかけや、影響されたミュージシャンの事、ライブが大好きだってこと、それから、カラオケでは出来れば自分の歌はうたいたくないんだってことなど、たくさんのことを話してくれた。   音楽に対する真面目な考え方とかこれからの夢、そして、自分の信念を貫き通す事の大変さについても教えてくれた。  シュンのことを、可愛らしい女の子のようなイメージで見ていた自分が恥ずかしくなってしまった。  俺は音楽とはあまり縁がないけれど、シュンの話はとても良い刺激になった。 シュンは自分のことを話すだけじゃなくて、俺の話もたくさん聞いてくれた。デザイナーを目指していること、学校で勉強している事、これからの夢、バイト中におきた面白い出来事。子供のころに思っていた、親父にも話したことのない心に秘めていた話まで、熱心に聞いてくれた。  そして、シュンはいつか俺にアルバムジャケットを描いて欲しいと言った。俺もそんな仕事が出来るようなデザイナーになりたいと思った。絶対、シュンの為に何か役に立ちたい。  飲み始めて2時間以上経つと、あまり酒に強くない俺はかなり酔ってしまい、シュンの瞳が時々艶っぽく見えて困っていた。シュンの事を女の子のように思っていた自分を恥じていたのに、シュンは男だってわかっているのに、シュンに見つめられている間、自分が考えていた事の非常識さにとても戸惑っていた。  シュンを自分のものに出来たら――。  その後も話が尽きなかった。シュンと目が合うたびに浮かぶ己の邪な気持ちを、酔いのせいだと切り換える作業が必要で、俺的にはかなり緊張感があったけれど……。  楽しくて時間の感覚がなくなっていた俺は、そろそろ絵を取りにいかないといけない、と思い、スマホを取りだして時間を確認した。すでに12時を回っているじゃないか――。 「あの、もう12時過ぎているし、そろそろ絵を取ってきます」  危ない自分の感情を振り払いながら、俺は一生懸命笑顔を作った。 「あぁ、そうだね」  シュンが時計を見てからそう言った。笑顔だったけど、シュンの瞳が急に輝きを無くしたように思えた。 「じゃあ、ここで少し待っていてもらえますか? 俺、すぐ行ってきます。15分くらいで戻れると思うので」  そう言って俺が席を立つと、「待って」と言ってシュンも立ち上がった。 「俺も行くよ」 「え? あ、そんな、悪いですよ」 「だって俺、1人で待ってるの、あんまり好きじゃないんだよ」  そう言ってシュンが照れくさそうに笑った。 「分かりました。じゃあ、一緒に来てください」  俺がそう言うと、シュンの表情がパッと明るくなった。酔っているせいなのか、しまっておかなくては、と思った感情があふれ出しそうで、メチャメチャ困っていた。  店を出た後、お礼を言うと、シュンは「また、来ような」と言ってくれた。社交辞令なんだろうけど、嬉しすぎて俺は恥ずかしいくらいの笑顔だったと思う。  2人で並んで歩いていると、俺の肩ぐらいのところにシュンの頭があった。 女の子のだったら、肩を抱くのに丁度良いくらいの背の差だろうな――歩いている間、すっとそんなことを考えていた。

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