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第12話

「それじゃあ、他に何か欲しいものでもあるかな?」  シュンが困ったように微笑みながら、俺の目を見つめた。その瞳を見ているうちに、俺は魔法にかかったように動けなくなってしまった。 「……シュンの唇が欲しい」  自分の言葉とは思えないようなセリフが溢れ出し、俺は返事も待たずにシュンの体に両腕を回していた。  思っていた通り、シュンは俺の腕の中にピッタリサイズだった。この感じ、俺が夢にまで見ていた……。  抵抗しないのを良いことに、俺は両腕に力を入れてシュンをギュッと抱きしめた。 それから両腕の力を緩め、シュンの瞳を覗き込んだ瞬間、俺は自分がどうしてそんな事したのか分からず、一気にパニックになってしまった。  どうしよう? これじゃあシュンに嫌われてしまうじゃないか……バカな俺。 「ご、ごめんなさい」  その言葉を言った後、酔ったせいだと笑い飛ばせば良いのに、と心の奥底で冷静な自分が忠告していた。 それなのに俺は、黙って俺を見つめているシュンをに独白を始めていた。 「俺、初めて会ったときからずっと好きでした。始めは、女の人だと思って一目惚れしちゃって、でも、男性だって分かって失恋したはずだったのに、それでも気持ちが変えられなかった。バカですよね俺。こんなに近づく事なんてあるはずないって思ってたから、好きになってもいいかな? って……あぁ、もうヤバ過ぎですよね」  俺は恥ずかしくなってシュンの前で項垂れた。 「鷹人君、かなり酔ってるでしょ?」  シュンの声が聞こえた。 「酔ってます。だからこんな事言っちゃってるんです。困りますよね。しつこいファンよりたち悪いです。ごめんなさい。気持ち悪いですよね…」  シュンが項垂れている俺の頭をポンポンと叩いてクスっと笑った。 「大丈夫だよ、別に気持ち悪くは無いさ。ありがとう、好きになってくれて。でも、君の気持ちには……」 「いいんです、分かってます。当りまえですよね。ごめんなさい、絵を持って早くここから帰ったほうがいいです。俺、自分を抑えられる自信が無くて……」  台所からは、お湯が沸いている音が聞こえてきた。 「俺が台所に行ってる間に、帰ってください。お願いします。貴方にこれ以上嫌な思いさせたくない。貴方に嫌われたくないから」  俺はそう言って、台所にガスを止めに行った。しばらく台所から動け無かった。何であんな事しちゃったんだろう――俺は、台所でそのまま1人で落ち込んでいた。  隣の部屋からは、絵を包んでバッグに入れている音が聞こえていた。

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