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第13話
「鷹人君?」
しばらくして背中の方から、シュンの遠慮がちの声が聞こえた。それから、シュンが後ろから俺の腰の辺りに腕を回してきた。
「いいよ。キスしても」
心臓がドクンとなった。俺の心臓の音が部屋中に響いているような気がした。
「え……」
シュンが俺を背中からギュッと抱きしめていた。
「鷹人君は、俺が男だって分かってても、好きだって言ってキス出来るのかな?」
頭の中が真っ白になったままの俺は、何も答えられなかった。
「君が好きだって言ってる俺は、君と同じ男なんだよ? 柔らかい胸も無いし、女みたいに君を受け入れる場所は無いんだよ? それに、君と同じ男のシルシがついてるんだよ? それでも、俺の事好きだなんて言えるのかな?」
シュンの声が悲しげに聞こえた。 俺はすぐには返事が出来なかった。
「ほら、酔いが覚めただろ?」
シュンが笑いながら俺の腰に回していた手を離し、俺から離れていった。
「じゃあね、鷹人君。絵、ありがとな」
シュンが歩き出した。このままじゃ、もう2度とシュンに会えないかもしれない。
そんなの嫌だ。シュンが男だって事は最初から分かってた事、それでも俺は、シュンが好きなんだ。
「待って、シュンさん」
俺はシュンを追いかけ、背中から抱きしめた。
「俺、シュンさんが大好きだ」
シュンの耳元でそう囁いた。シュンがくすぐったそうに肩をすくめた。
「大好き……か。かわいいね。こういう時は『愛してる』とかじゃないの?」
シュンが振り向いてクスクス笑った。馬鹿にしている感じではなかった。でも、シュンの見せる大人の余裕が少し悔しかった。
「俺、『愛する』って気持ち、よく分からないんです。ただ、シュンさんは俺の中の1番だって」
瞳を見つめてそう告白した。子供みたいだろうか? 大好きなんて。探るようにシュンの表情を見ていた。シュンは、俺を見て何か言おうとした。でも、その言葉を飲み込むように首を振ってから言った。
「君の1番か、いいね、それも。でも今の俺には」
「今はシュンさんの1番じゃなくてもいいから、それでもいいから……」
俺はそう言ってから、シュンの唇に自分の唇を重ねた。唇の隙間から舌を滑り込んませ、夢中になってシュンの舌を追いかけた。しばらくキスが止められなかった。
シュンも俺に答えてくれるかのように俺の腰に手を回してくれていた。
「シュンさん、ごめんなさい」
唇を離し、腰に回した腕を解いてから俺はそう言った。
「まいったな……」
視線を泳がせながらシュンが呟いた。
「シュンさん、あの、俺……」
「何? 鷹人くん」
「あ……あの俺……俺、頑張ったらシュンさんの1番特別な人になれますか?」
シュンの瞳が微かに揺れた。ほんの一瞬嬉しそうに輝いたように見えた。それはただの俺の願望だったんだと思うけれど。
「ゴメン、鷹人。君の特別にはなれない」
もう一度シュンが手を伸ばして、俺の頭をポンポンと叩いた。
分かってた。分かりきっている事だった。でも、言葉にされるとやっぱりショックが大きい。
シュンは有名芸能人、俺はただの学生で、それだけだって、スキャンダルだ。それより何より、最近は少なくないとは言え、同性の恋愛なんて……。
「ゴメンな」
「いいんです。分かってた事だから」
微笑んでいるはずのシュンの瞳が、何故か濡れているように見えた。
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