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第15話
「おはよう、鷹人君」
いつもと違う朝に戸惑いながら俺は目を覚ました。朝誰かに声を掛けられるなんて何年ぶりだろう?
「お、おはようございます」
両手で顔をパンパンと叩いて自分に気合を入れた。結局4時ごろまで眠れなかったので、かなり眠いのが正直なところだった。
「俺、寝ちゃったね」
シュンが頭をかいた後、「ごめん、ごめん、」と謝った。いやいや、謝るのは俺の方ですってば。
「いえ、気にしないで下さい……。それよりも、あのその……」
そこまで言ってから俺はパっと立ち会がり、深々と頭を下げた。
「昨日はすみませんでした。何だか酔った勢いで変なことしてしまって……」
頭を下げたままにしていたけれど、シュンが何も言わなかった。俺はどうしたら良いかわからず、ずっと頭を下げたままでいた。
「気にしないでいいよ。俺が飲ませすぎちゃったからだよね、ゴメンな」
「シュンさんは悪くないです。ただ俺が酔って気持ちを抑えられなかっただけだから……」
「え?」
「あ、いや……俺」
その時、スマホの着信音がした。俺の着信音ではないから、シュンのスマホだろう。
「シュンさん、電話じゃないですか」
「良いよ、出なくても」
シュンはそう言った。しばらく鳴っていた着信音が諦めたように一度止まったけれど、すぐにまた鳴り始めた。
「シュンさん、仕事の電話かも」
見つめられているのが気まずくて、俺がそう言うと、シュンはけだるそうにスマホを取り出した。
「あぁ、俺。ごめん。連絡しなくて」
シュンが俺に背を向けて話しだした。明らかに声のトーンが違う。
「うん、そうだよ。絵を受け取ってから飲みに行っちゃって。それで飲み過ぎて寝ちゃったんだ。そう、そのまま泊めてもらった感じ。今日は帰るから」
その時俺は、シュンには『帰る場所』家庭があったんだ。一番になるも何も、昨日俺がやろうとしていたことって、家族からシュンを奪い取るみたいなことじゃないか。
その時、背中を向けて話していたシュンが俺の方を向いた。
「じゃあね。うん、ごめん」
シュンがそう言って電話を切った。俺は何も言えなくて、そのままシュンを見つめていた。
「さて、帰らなくちゃ」
「はい」
シュンに向かって俺はもう一度頭を下げた。
「すみませんでした」
「もう、気にしないで良いよ」
「だって……今の電話、シュンさんの特別な人ですよね」
「あ……うん。妻なんだ」
シュンの言った言葉の意味が、一瞬わからなかった。
あぁ、俺、何てバカなんだろう。シュンは結婚していたんだ。恋人じゃはなくて、奥さんが
いたんだ。
いや、奥さんが居る以前の問題であるのは、もちろんわかっているけれど。
「ごめんなさい。奥さんを裏切るような事をさせてしまって。俺、シュンさんが……あの」
「いいんだよ、鷹人君。俺だって悪いんだ」
「いえ、シュンさんは、俺に同情してくれただけですよね」
「違うんだ、ごめん。鷹人が店で待つように言ってくれたのに、ついてきてしまって……鷹人君が似てたから――」
それからシュンは昔の事を話し始めた。それは、彼が奥さんに出会うずっと前の話。でも、俺にはどちらも辛い事実だった。
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